あの日、あの時、俺たちは出会った。

軍からの『あの命』によって・・・。

それは偶然だったのかもしれない・・・。

だけど必然だったのかもしれない・・・。

それは3年前までさかのぼる。

 

―3年前、首都レジーナ・軍部司令部―

 

「中尉―、フォース中尉―!」

1人の兵士が大きな声で呼びながら中庭に走りこんでくる。

そこは何本かの大きな木が植えられ、花壇にはたくさんの種類の花が咲いているとてもきれいな場所だった。

そして、そこに植えられている木のうちの一本に人が1人。

「あっ、フォース中尉!」

木の上の人物を見つけた兵士が嬉しそうに呼びかける。

その声に反応して、先ほどまで木の上で寝ていた人物は大きなあくびをしながらゆっくりと体を起こす。

この人物の名はグレン・フォース、15歳。

この春中尉に昇進したばかりだった。

「俺に何か用か?」

グレンが下にいる兵士に話しかける。

しかし、まだ完全に目が覚めていないのだろう。そう言う声にはあくびが混じっていた。

それを見た兵士は本当に申し訳ないといった面持ちでグレンを見上げ、用件を話す。

「休憩中申し訳ありませんが、クラフト将軍がお呼びです」

「将軍が?」

それを聞いて今まで眠そうだったグレンの顔が仕事用のものになる。

「はい。なんでも、派遣調査らしいですよ。中尉としての初仕事ですね!」

兵士はまるで自分のことのように嬉しそうに言う。

しかし、グレンは嬉しそうではない。むしろ、嫌なようだ。

それもそのはず、クラフト将軍と言えば、野心家として有名なのだ。

自分の昇進に利用できるものは全て利用する。そのため、部下の手柄を横取り、なんてことがしょっちゅうなのだ。

そんな奴のためになぜ自分が働かなければならないんだ、と常日頃から思っていたグレンが嫌がるのも当然だろう。

(・・・行きたくないが、行かないと評価が下がるからな)

そう考えたグレンは、仕方なく木から降りて兵士に話しかける。

「で?どこに行けばいいんだ?」

「はい。まずは『会議室』に行って他の2人と合流し、それから将軍の説明を受けてください」

「他の2人?」

兵士のその言葉にグレンはさらに嫌そうな顔をする。

グレンは基本的に単独行動を好むため、他人が一緒なのは嫌なのだ。

「ああ、言い忘れてましたね。すみません。実は、中尉と一緒に調査に行く人が2人いるんですよ」

グレンの言葉を聞いた兵士がそう説明する。

「どんな奴らだ?」

「さあ?私もよく知らないのですが・・・何でも、中尉と同じでこの春昇進したばかりの15歳の軍人だそうです。

しかも、そのうちの1人は女性だとか」

「・・・そうか」

兵士の言葉を聞いたグレンはそれだけ言って中庭を出る。

そして、将軍と兵士の言っていた2人に会うために会議室へと急ぐのだった。

 

 

グレンは会議室の前で足を止めた。

そしてゆっくりと扉を開け、中に入る。

そこには2人の人物がいた。

1人は男、1人は女。

グレンはその二人に見覚えがあった。

男の方、ショートカットより少し長めの黒髪に漆黒の瞳。そして腰には長い(つるぎ)・・・。名前はカイ・シーケンス。

グレンの記憶ではカイは曹長だったはずなので、昇進したということは今は准尉だろう。

そして女の方、腰まで伸ばした金髪に淡いブルーの瞳。そして腰にはきれいに束ねられたムチ・・・。名前はリア・マクラミー。

こっちは准尉だったはずなので、今は少尉だろう。

グレンはしばらく入り口付近に立っていたが2人の所に歩いて行き、挨拶をした。

「はじめまして。グレン・フォース、地位は中尉です」

それを聞いた2人もお辞儀をしてそれぞれ挨拶をした。

「はじめまして、カイ・シーケンスです。地位は准尉です」

「はじめまして、フォース中尉。私はリア・マクラミー、地位は少尉です」

そうして挨拶と自己紹介を終えたとき、ちょうどある人物が入ってきた。

「やあ、よく集まってくれたね諸君」

その人物はジェイ・クラフト将軍だった。

クラフト将軍はきれいな白髪にブラウンの瞳を持つ初老の軍人だ。

その手にはくわえタバコが握られている。

「いえ。それで、私たちはどこに行けばいいのでしょうか?」

クラフト将軍が嫌いなグレンは内心、すぐにでもこの場から立ち去りたかったが、それを必死にこらえてそう聞く。

「うむ。まず、今回の任務のリーダーはフォース中尉、君だ。そして君たち3人にはロックフォードに行ってもらう」

「ロックフォード?聞いたことがありませんね、どこですか?」

そう口を開いたのは、カイだった。

そのカイの問いにクラフトはくわえタバコを吸ってからゆっくりと答える。

「ロックフォードはレジーナから西に100kmほど行ったところにあるとても小さな村だ。

しかし、小さい村でもロックフォードはたくさんの貴重な鉱物が採れるためとても豊かだ。

今回の任務はその村の視察だ。ただし、あくまでも視察なので軍人だとばれないように私服、普通乗用車で行ってもらう。

それともうひとつ・・・」

ここでクラフトは言葉を切り、しばらくしてからまた話し始めた。

「ロックフォードでは最近たびたび怪物が出て村人に死者が出ているという噂だ。

もしその噂が本当で、任務中に怪物に出くわしたらかまわず始末するように」

「はっ!」

クラフトの言葉に3人は同時に敬礼をする。そしてロックフォードに行くために3人で会議室を出たのだった。

 

 

「さて、全員着替えてきたか?」

グレンが他の2人に聞く。その側にはロックフォードに行くための車があった。

「はい」

「ちゃんと着替えてきました!」

グレンの問いにリアとカイがそれぞれ答える。

3人は軍服からそれぞれの私服に着替えていた。

グレンは黒のタンクトップに黒のズボン、そして黒い革の靴。

その腰にはホルスターをつけていて、中には四十五口径のリヴォルバーが入っている。

リアは白い胸の下までしかない短いTシャツにジーパンを太ももの上のところで切って短パンにしたズボン、そして白いスニーカー。

ズボンの、本来はベルトを回すための穴には武器であるムチが巻きつけられている。

カイは白いTシャツに青いジーンズ、そしてリアと同じく白いスニーカー。腰には剣をさしている。

「よし」

そう言うと、グレンは少し息をはき、改めて2人を見た。

「ロックフォードに出発する前にひとつだけ・・・言っておくことがある」

「なんですか?」

グレンの言葉にそう口を開いたのは、リアだった。

それに答えるように、グレンも口を開く。

「俺は今まで基本的に単独行動をとってきた。そして今回もそうするだろう。だから勝手な行動をとることもある。

それが嫌な奴は今回の任務には参加するな。・・・俺が疲れるだけだからな」

そう言うと、グレンは瞳を閉じて軽く息を吐いた。

いつも何人かで組まされることになった時はこのことを言い続けてきた。

そしてそれと同時に、大体の者は『耐えられる自信がないから参加しない』と言って戻っていったものだ。

そのたびに、グレンは一人で懸命になって与えられた任務を果たしてきた。

そして今回も、そうなることを覚悟していた。

しかし、その予想は大きくはずれた。

「いいですよ」

リアがそうゆっくりと口を開く。そして続けた。

「いいですよ、それで。別に無理して意見をあわせることもないですし。必要なときにだけ協力すればいいんですから」

そのリアの言葉に続いて、カイも口を開く。

「そうですよ。それに、俺も基本的にそうだし。そのほうが俺としても楽ですしね」

その2人の言葉にグレンは驚いた。

なにせ、今まで自分のその考えと同じ考えを持つ者や、否定せずに受け入れてくれる人などいなかったのだ。

グレンはなんとなく嬉しくて、少し微笑を浮かべた。そして改めて2人に言う。

「・・・行こうか」

「はいっ!」

それに2人が同時に応える。そしてそのあと、3人は車に乗り込んだ。

今回の任務を果たすために・・・ロックフォードへ。

しかし、そこで起きる出来事を3人はまだ知らない。

そしてその出来事が3人の絆を生むことになることも・・・。