エルニーニャ王国首都レジーナ中央司令部。そこの情報処理室に、一人の人物がいた。

その人物はパソコンのキーをカタカタと音を立てて次々押していく。そしてしばらくキーを打ちつづけ、最後にエンターキーを押す。

すると、パソコン画面に個人情報が表示された。

その人物は、その情報をもとに何かを作っていく。そして不適に笑った。

「ふふ…後は計画通りにやれば…」

その人物はそう言い、パソコンの電源を切った。

 

 

 

司令部の第三休憩室。そこでは、いつものメンバーが休憩時間を利用してそれぞれくつろいでいた。

「だーっ、またかよ!おい、ツキ!いい加減その強運何とかしやがれ!」

そう言うのは、ディア・ヴィオラセント。階級は中佐。濃赤茶の髪に同じ色の瞳を持っている。そして左頬には大きな傷。

「それは不可能だ。誰も俺の溢れる強運は止められない。諦めるんだな、ディア」

ディアの言葉にそう答えたのは、ツキ・キルアウェート。階級は曹長。茶色の髪と黒い瞳を持っている。

今ここにいる中では一番年長で、階級は低いものの、みんなから慕われるお兄さん的な存在だ。

「そうだぞ、ディア。だいたい、強運を何とかしろってとこから無理なんだよ。ったく、相変わらずバカだな」

今度はツキの横にいた長身の男が言った。

この男はカスケード・インフェリア。階級は大佐。ダークブルーの髪と、吸い込まれそうな海色の瞳を持っている。ツキと一緒で、お兄さん的存在だ。

「バカって言うんじゃねぇよ、この海猿!」

「…海猿って、何ですか」

そうひかえめに言うのは、クライス・ベルドルード。階級は少佐。少しはねぎみの金髪と、青い瞳を持っている。

そのクライスの言葉にディアは

「うるせぇ!そんなこたぁ浅野に聞け!」

と怒鳴る。

 

ごめんなさい。私にも説明なんて、出来ません。

 

「ディアさん、少し落ち着きましょうよ。アルベルトさんが挙動不審になってるじゃないですか」

今度はクライスの横にいた少年が言う。そしてその向かい側でおろおろしている青年が一人。

この二人はそれぞれ、少年の方がアーレイド・ハイル。階級は准尉。後ろでポニーテールにした長い金髪と、エメラルドグリーンの瞳を持っている。

そして青年の方がアルベルト・リーガル。階級は少佐で、リーガル財閥の御曹司。真ん中で分けた黒髪と、緑色の瞳を持っている。

とても温厚な性格で、どうやって少佐まで昇進したのだろうと言うくらいよく挙動不審に陥る。頼りない人ナンバーワンの青年だ。

「ったく、なんでこれくらいの事でいちいち挙動不審になってんだよ、バカ」

アルベルトの後ろの方で壁に寄りかかって今までの様子を見ていた少年が口を挟んだ。

この少年はブラック・ダスクタイト。階級は中尉。アルベルトと同じく、黒い髪と緑色の瞳を持っている。

アルベルトとブラックは腹違いの兄弟で、髪と目の色が同じなのは、二人とも父親の遺伝子を色濃く受け継いだからだ。

「うえーん、バカって言わないでよー」

アルベルトが今にも泣きそうな顔で言う。それを宥めるように、隣にいた少年がアルベルトの肩を叩いた。

「アルベルトさん、泣かないでくださいよ。誰もあなたの事をバカだなんて思ってませんから…たぶん」

この少年はカイ・シーケンス。階級は少尉。ショートカットより少し長めの黒髪と、それと同じ色の瞳を持っている。

かなり気分屋だが、特技は薬の調合で、一度調合した薬の作り方は絶対に忘れないという、かなり人間離れした記憶力の持ち主だ。

ただし、調合する薬に少々(いやかなり?)問題あり。

カイがそう言うと、隣のテーブルで世間話をしていた他のメンバーのうちの一人の少女がにっこりと微笑んで口を挟んだ。

「そうですわよリーガル少佐。少なくとも、わたくしはそんな事思っていませんわ。

リーガル少佐はいつも一生懸命仕事をこなしていらっしゃいますし」

この少女はメリテェア・リルリア。階級は准将。肩より上くらいまでの金髪と青い瞳を持っている。

ここにいるメンバーの中では一番階級が高く、若干15歳にして准将になった天才少女。

由緒正しい家柄の出身で、何をするでもいつも高貴な雰囲気を漂わせている。

「そうね、アルベルトさんはバカではないわ。でも、バカなところがたまにキズね」

そう言ってメリテェアのフォローをぶち壊したのは、クレイン・ベルドルード。階級は中佐。金髪と綺麗な青い瞳を持っている。

クライスの妹で、情報系の仕事が得意。その中でも一番得意なのはハッキングという、なかなか侮れない少女だ。

「クレインちゃん、それ…せっかくのメリーちゃんのフォロー台無しにしちゃったんじゃないかな…」

クレインのその発言に対して少し溜息混じりに言ったのはリア・マクラミー。階級は中尉。腰まで伸ばした金髪と淡いブルーの瞳を持っている。

優しい性格の少女で、いつも他人のフォロー役に回っている。

「ってゆーか、そもそもの根源はバカがバカな事言い出したからだろ。まったく、お前はいつになったらバカが治るんだ?」

リアの後に、青年がディアを見ながら言う。

この青年はアクト・ロストート。階級は中佐。ショートカットの金髪と紫の瞳を持っている。

とても綺麗な顔立ちで、初めて会う人には必ず女性と間違えられるという、かなりかわいそうな青年だ。

こんな言い合いはいつもの事なのだが、かなり呆れかえって何も言わない少年が一人、頭を抱えていた。

この少年はグレン・フォース。階級は大尉。ショートカットの銀髪とそれと同じ色の瞳を持っている。

「グレン君、大丈夫ですか?かなり堪えてます?」

そのグレンを見てそうたずねたのはクリス・エイゼル。階級は中佐。下の方でまとめた長いオレンジの髪と黒い瞳を持っている。

容姿はきれいで言葉も丁寧なのだがかなりの毒舌家。本人いわく

「物心ついたときから口ゲンカで負けた事は無いんですよ(にっこり)

だそうだ。

「ええ、大丈夫。問題ないです」

クリスの言葉にそう答え、グレンは紅茶を一口飲んだ。どうやら、紅茶を飲むと落ち着くらしい。

そんな会話を無視して、自分たちの世界に旅立ってしまっている少年少女達が約1名ずつ。

「それでね、そのニアって人が世界を征服しに来るんだよー」

「そうなんですか!?強いんですね、ニアさんて!」

そんな会話をしている二人のうち、少女の方がラディア・ローズ。階級は曹長。ウエーブのかかった長い黒髪と、同じ色の瞳を持っている。

かなりの大ボケ少女(本人は真面目)で、いきなりとんでもない事を言い出す。

そして少年の方はハル・スティーナ。階級は軍曹。肩より少し長い薄い紫色の髪と、それより少し濃い色の瞳を持っている。

とても素直な少年で、みんなにかわいがられているのだが、自分よりも大きな鎌を片手で振り回す怪力の持ち主だ。

二人はそう楽しそうに話していたが、その会話の内容を聞いてカスケードがすかさず突っ込む。

「おい待て!なんでニアが世界を征服する事になってるんだ!?

ニアは普通の奴だったし、だいたいもう死んでるんだぞ!?」

そのカスケードの突っ込みに、ラディアは楽しそうに答えた。

「いやだなー、カスケードさん。私の単なる今後の展開予想ですよ♪本気にしないでください」

ラディアは笑顔でそう言うが、ラディアなら本当にそうしてしまいそうで怖い。てゆーか、展開予想って…

そしてもう一人、今度は自分の世界に旅立ってしまっている少女がいた。

「カイさん…素敵…」

カイを眺めて一人ときめいてしまっているのはシェリア・ライクアート。階級は准尉。

肩より少し上まで伸びた下がはねぎみのオレンジ色の髪と、同じ色の瞳を持っている。

普段は『男勝りのシェリア』で通っているが、何を間違えたのか、以前転んだところを目撃され、しかも笑われたというのにカイに人目惚れしてしまったというおかしな少女だ。

本人いわく

「笑った時のあの顔が素敵なの」

だそうだ。乙女心って…なんだろう。

しばらくそんな会話が続いたが、不意に時計を見たカイが口を開く。

「あ、もう少しでお昼ですけど、食堂に食べに行きますか?」

「そうですわね。早く行かないと、食堂も混んできますし」

カイの言葉にメリテェアもそう言う。しかし、ツキが突然口を開いた。

「あ、すまん。ちょっと待ってくれるか?」

「?どうしてですか?」

「いや、今日弁当忘れてきちまってさ。そうだなー、あと…」

そこまで言って、ツキは時計を見る。現在午前1159分。

「あと一分も待ってくれれば弁当来るからさ」

「一分?なんでそんなに早く弁当が来るんですか?」

「いいから、まあ見てなって」

カイの言葉にツキはそう言い、時計を見つめる。そしてカウントダウンを始めた。

54321…」

「おにーちゃん、またお弁当忘れて行ってたよ!」

ツキが0と言ったのと同時に、少年が一人、勢いよくドアを開けて入ってきた。

手には大きな袋を下げている。現在の時刻、12時ちょうど。

この少年はフォーク・キルアウェート。黒い髪と黒い瞳を持っていて、頭に二本の触覚がある。触覚は感情によって動くらしい。

ツキの弟で、将来の夢はコックさん…だったかな?とにかく料理の腕は誰もが認めている。

だが、フォークが料理をしている時はいろんな意味でかなり怖いらしく、ツキいわく

「あいつが料理してる時はかなりヤバイから、絶対に見ない方がいい」

だそうだ。

「おー、フォーク。お疲れさん」

部屋に入ってきたフォークを見て、ツキは楽しそうに笑いながら言う。

「もう、いっつもお弁当忘れて。せっかくぼくが一生懸命作ってるのに」

フォークは少し不機嫌そうに言った。

「ああ、わかってるさ。お前の料理は本当においしいよ。だから、これからも作ってくれな」

「もう」

フォークはそう言って溜息をついたが、不意に挨拶をしていない事に気づき、部屋にいる全員に向かって頭を下げた。

「おはようございます、皆さん。お元気そうで何よりです」

そして、手に持っていた袋からお弁当を取り出しツキに渡してから、また何かを取り出した。それは少し大きめの箱だった。しかも三つ。

一体何を持ってきたんだ?フォーク…。

その場にいた全員がそう思った。しかし、フォークはそんな全員の思いをよそに、テーブルにその箱を置く。

「今日は皆さんに差し入れを持ってきたんです。17人もいるから持ってくるの大変だったんですけど…」

そう言って箱の蓋を次々と開ける。するとそれには大きめのチーズケーキが入っていた。形も綺麗で、とてもおいしそうだ。

「わー、チーズケーキだー」

アルベルトがかなり嬉しそうに言う。それもそうだろう。彼の好物はチーズケーキだ。

過去に、誕生日の時にアクトがくれた一人サイズのケーキと、ブラックがこっそり部屋の前において行った市販のケーキ一切れを、その日のうちにすべてたいらげてしまったという記録がある。アル…お前…なんで太らないんだ?

まあ、それはいいとして、フォークは箱の上のチーズケーキを、16等分してみんなに配った。そして最後に、

「はい、グレンさんにはこれ」

と言ってグレンに小さな箱をひとつ渡す。それを受け取ったグレンは、箱を開けてみた。

すると、それには和菓子が一つ入っていた。

グレンは和食派で、洋食系はひとつの例外を除き一切食べられない。もちろん洋菓子も同じである。

それを知っているフォークは、わざわざグレン用に和菓子を作ってきたのだ。

箱の中身を見たグレンは、一言。

「…ありがとう」

「いいえ、どういたしまして」

グレンの言葉を聞いて、フォークは笑顔で言った。

そして、ふと思い出したようにメリテェアのところに行った。

「あの、メリテェアさん。お願いがあるんですけど」

「あら、なんですの?」

「実は、またベックーがいなくなったんです。司令部にいるかもしれないから、探していいですか?」

ちなみに、ベックーとはフォークが飼っている()赤いベクトルで、気温によって色が変わるらしい。

メリテェアはフォークのその話を聞いて、にっこりと微笑んだ。

「ええ、もちろんいいですわ。とてもおいしそうなチーズケーキも作ってきてくださったことですしね。

もし探している時に何か言われたら、わたくしから許可をもらったと言うといいですわ。そうすれば、だいたいの部屋は入れてもらえますから。

でも、仕事の邪魔になりそうな部屋は、入らないようにしてくださいね」

「うん、わかった!ありがとう、メリテェアさん」

フォークはそう言って部屋から出て行った。そのあとで、カイが一言呟く。

「すごかったですね…フォーク、どうしてあんなにぴったりの時間に来れるんだ?」

それに、ツキが答えた。

「まあ、愛の賜物かな」

「へー、あなた達兄弟は二人してブラコンなんですね」

クリスが笑顔で言う。…なんでお前はそういうとらえ方をするんだ?

そんな会話をしていると、不意に放送がかかった。

 

『メリテェア・リルリア准将。至急第一会議室に来てください。繰り返します。メリテェア・リルリア准将……』

 

「あら、呼ばれてしまいましたわ」

「一体なんでしょうね」

「とりあえず、行って来ますわね」

メリテェアはそう言い、部屋を出た。

「メリーさんが呼ばれるなんて、珍しいですね」

グレンが呟く。

「何か将官クラスが動くような事件でもあったんですかね」

今度はクライスが言った。

「さあな。とりあえず、メリーが帰って来れば少しは話が聞けるんじゃないか?」

カスケードがそう言って、その話は終った。

 

 

 

メリテェアは長い廊下をまっすぐ歩き、一番奥にある扉の前で止まった。そして軽くノックをする。

「誰だね?」

扉の内側から低い声が聞こえた。

「リルリアですわ。入ってもよろしいかしら?」

「ああ」

メリテェアはそれを聞くと、ゆっくりと扉を開き中に入った。

そこには、男女合わせて3人が立っていた。

「あら、あなた達でしたの。わたくしに何の用ですの?」

メリテェアのこのしゃべり方からして、どうやら3人ともメリテェアと同じく准将らしい。その3人のうちの一人が口を開いた。

「この軍から裏切り者が出たの」

「裏切り者?」

すると、今度は違う人物が口を開いた。

「最近、麻薬の密売がしょっちゅう行われているだろう」

「ええ」

「その麻薬密売組織の一人が、軍の情報を得るためにスパイとしてここにいる事がわかった」

「…容疑者は絞れているんですの?」

「ああ。これだ」

そう言って、男は1枚の紙をメリテェアに差し出した。

メリテェアはそれを受け取り、軽く目を通す。しかし、すぐに表情が変わる。

「…この情報は…確かですの?」

「ああ、間違いない」

「そんな…まさか…」

その紙に、容疑者は3人顔写真と一緒に書かれていた。

そのうちの二人は知らない人物だったが、一人は知っているどころか、毎日顔を会わせている。

その人物は、肩より少し長い薄い紫色の髪と、それより少し濃い色の瞳を持った、とても素直な少年。ハル・スティーナ軍曹だった…

 

 

 

「メリー、遅いですねー。早くしないと本当に食堂混んじゃいますよ」

カイが時計を見ながら言う。現在1225分。

「まあそう言うなって、カイ。メリーだって一応准将だ。俺達と違って、何かと忙しいんだよ」

カスケードがカイの隣でそう言う。そのすぐあとだった。

 

『司令部内にいる全兵に告ぐ。ただちに練兵場に集合せよ。繰り返す、全兵はただちに…』

 

「…?なんでしょうか?いきなり集合しろなんて…」

アルベルトが不安そうに言う。それに、ツキが口を開いた。

「とりあえず、集合しろってんだから行くしかないんじゃないか?あーあ、またフォークの弁当お預けかよ」

「わー、楽しみだなー。何するんですかねー。練兵場爆発させるのかなー♪」

「ラディアちゃん、それはないと思うわ…」

「急いでるカイさんも…素敵…」

こうして、ほとんどのものは不平を言いながら、一部は変な事を考えながら、そこにいたメンバーは練兵場に向かった。

 

 

 

グレン達が練兵場についたとき、もうすでにほとんどのものがそこに集まっていた。

今までに全員が集まったのはそう多くはないが、やはりいつ見てもかなりの人数である。

(…メリーがいないな)

グレンは一通り練兵場の中を見渡したが、メリテェアの姿はどこにもなかった。

(…ということは)

「メリテェアさんが今回の司令官の可能性が高いですね」

グレンが何を考えていたのかを知った上でのように、クリスが言う。

「今までメリテェアさんが司令官になったことはないですけれど、あの人も准将ですからね。これからもないとは言いきれません」

「…ああ」

グレン達がそう話していると、一人の人物が練兵場に入ってきた。

その人物は、予想していた通り、メリテェアだった。

メリテェアは練兵場に入ってくると、まっすぐ最前列に並ぶ兵たちの前に歩いてきた。

「さて、なぜここに集められたのかとか、いろいろと気になる事はおありでしょうけれど、すぐに本題に入らせていただきますわね」

そして、メリテェアは軽く深呼吸して話し出した。

「まず、ここに皆さんをお集めしたのは、過去に全兵が動いた時のような、大きな事件が起きたからですわ」

そう話すと、メリテェアはその続きを、一言一言噛み締めるように言った。

「今回の任務は最近急増している麻薬の密売…それを実行している組織の壊滅ですわ。

数日前、その密売組織についての重要な情報が入ったんですの。

ですから、この機会にその組織を一気につぶしてしまいます」

そこまで言って、メリテェアは一呼吸つき、また口を開く。

「今回の任務の指揮は上層部からわたくしに任されましたから、基本的にわたくしの指示にしたがっていただきます…といいたいところですけれど…」

そう言うと、メリテェアはいっそう大きな声を出した。

「カスケード・インフェリア大佐!インフェリア大佐はこちらに来てください!」

メリテェアにいきなり呼ばれたカスケードは、驚きのあまり隣にいたツキと顔を見合わせた。

しかし、ツキの合図でメリテェアのところに歩いていく。

メリテェアはカスケードが自分のところに来たのを確認すると、にっこりと微笑んで言った。

「わたくしの判断で、今回の任務の指揮はインフェリア大佐にしていただきますわ」

「え!?」

その言葉に、カスケードは思わず声を上げてしまう。メリテェアの言葉を聞いていた兵士も、数人ざわめき始めた。

そんな様子を気にせずに、メリテェアはさらににっこりと微笑んで言う。

「わたくしは准将と言えどもまだ16歳。普通なら尉官程度の小娘ですわ。

そんなわたくしよりも、いろいろな経験をつんできた大佐の方が、いざと言う時に適切な判断を下してくれるはずですわ。

今回わたくしは、司令官と言うよりは補佐係です。今回の指揮権は、先ほども言った通り、大佐にお渡ししますわ」

「しかし、私なんかでは…」

カスケードがすべてを言い終える前に、メリテェアが口を挟んだ。

「大丈夫。今回の事を任されたのはわたくしですわ。何かあっても、責任はわたくしが取ります。

それに、わたくしは信じていますから。あなたが、きっとわたくしよりもよりよい判断をしてくださると…」

それを聞いて、カスケードは目を閉じて、小さく溜息をついた。

「そこまで言ってくださるのなら…私もそのご期待に応えられるよう、精一杯働かせてもらいましょう」

「お願いしますわね」

メリテェアはまた微笑むと、そこにいた兵達に向かって言った。

「今聞いた通りですわ。この任務の間、基本的にはインフェリア大佐の指示にしたがっていただきます。

さあ、これから各々の班に分かれて頂きますが、今から言う方々だけ、少し残ってください」

そしてメリテェアは名前を言う。

「カスケードインフェリア大佐、アクト・ロストート中佐、ディア・ヴィオラセント中佐、クレイン・ベルドルード中佐、クリス・エイゼル中佐、アルベルト・リーガル少佐、クライス・ベルドルード少佐、グレン・フォース大尉、リア・マクラミー中尉、ブラック・ダスクタイト中尉、カイ・シーケンス少尉、アーレイド・ハイル准尉、シェリア・ライクアート准尉、ラディア・ローズ曹長、ツキ・キルアウェート曹長、

この方々はわたくしの所に来てください。では、解散いたしますわ」

そのメリテェアの言葉を合図に、兵達は次々と練兵場をあとにした。そして残ったのは、一人を除くいつものメンバー。

「あの…メリーさん」

アーレイドが口を開く。

「あら、なんですの?」

「どうして…ハルだけ呼ばれなかったんですか?どう見ても…いつものメンバーですよね?だったら普通ハルも…」

アーレイドが少し戸惑って言う。そう、明らかに呼ばれたのはいつものメンバー。ハルだけがいないのは不自然だ。

そのアーレイドの質問に、メリテェアは少し悲しそうに答えた。

「それは…今から話す事は…ハル君には言えない事だからですわ…」

そして、辛そうな口調で続ける。

「この軍から…裏切り者が出ましたの…」

「裏切り者!?」

「うらぎりものってなんですかー?」

他の者がかなり驚いているのに、一人だけ能天気な口調で言う。

それに、メリテェア以外のそこにいた全員が、これでもかと言うくらいずっこけそうになった。

「ラ…ラディアちゃん。裏切り者って言うのはね…ああ、後でちゃんと教えてあげるから、今はメリーちゃんの話を聞きましょうね」

リアがかなり脱力して言う。それを見た後に、グレンはすぐにメリテェアを見た。

「すみませんでした。話を続けてください」

「わかりましたわ。それで、その裏切りの容疑者が3人いるんですの。

一人は女性で、ソフィア・ライアーという方ですわ。これがその方の写真です」

そう言って、メリテェアは一枚の写真を全員が見えるように出した。

その写真には、深紅のショートカットの髪と、それより少し薄い色の瞳を持った20歳くらいの女性が映っていた。

見た感じ、かなりプライドが高そうな女性だ。

「そして二人目はアーサー・ロジットという男性です。…この方ですわ」

メリテェアが二枚目の写真を取り出す。

今度は肩より少し長めの茶色の髪と、黒の瞳を持った167歳くらいの少年だった。この少年はかなり温厚そうだった。

メリテェアはその二枚の写真を胸ポケットにしまうと、瞳を閉じて最後の一人の名前を言った。

「そして三人目は…ハル君ですわ」

「!!」

「え!?」

三人目の意外な名前に、そこにいた全員が言葉を失った。メリテェアは、さらに続ける。本当に…辛そうに。

「三人目に容疑者は、ハル君ですわ。軍の情報ですので、ほぼ間違いないですわ」

「メリーさんは…ハルが裏切り者だと思ってるんですか?」

アーレイドが言う。拳を強く握り締めていた。

「いいえ、わたくしは、ハル君は無実だと信じていますわ。

今回は、麻薬の密売組織の壊滅と、その裏切り者を見つけるのが目的ですの。裏切り者はその組織のスパイという事ですから。

でも、裏切り者は全員で探すわけにはいきませんわ。ですから、上層部がわたくしにその仕事を任せられるものを選ぶようにと。

それで、わたくしは一番信頼できるあなた達にその仕事を任せる事にしましたの。

あなた達には、組織壊滅という事で動いてもらいながら、裏切り者も探してもらう事になりますわ」

「……」

「それで、カスケードさんに今回の指揮をお願いいたしましたの。

二つの仕事が同時進行ですから、わたくしだけでは指揮しきれませんから」

「…信用できるんですか?」

突然、今まで黙っていたグレンが口を開いた。

「その軍の情報は、信用できるんですか?誰かが軍の情報を書き換えたという事は…」

「それは、これからクレインさんに調べてもらいますわ。そういう事は、彼女が一番得意ですから。

とにかく、今は情報を信じて動くしかありませんわ…

さて、話はこれで終りですわ。あなた達も、自分の班に行って下さい」

メリテェアはそう言い、その話をうち切った。

そこにいた人達は、カスケードとメリテェア以外、その場を離れ、自分の班に行った。

二人だけ残されたあと、メリテェアはカスケードに言った。

「カスケードさん、ハル君を…助けてあげてくださいね」

そのメリテェアを見ずに、カスケードは答えた。

「ああ、必ず俺がハルの無実を証明する。だから…泣くなよ、メリー」

「…はい」

こうして、仲間を守る為、大切な人を助ける為の戦いが…始まった。