人は、いつでも異端を嫌うものだ。

そしてその異端の概念に、私の能力も入るらしい。

まあ、当然といえば当然かもしれない。

普通の人は誰かの傷を、手をかざすだけで治したりなんかしない。

実際、小さい頃に一度村の外から来た人の傷を治してあげたときに悪魔と罵られた。その人はアスリック様によってすぐに村から追い出されたらしいけど、その日私は一日中部屋で泣き続けたことを覚えている。

それ以来、私はこの能力が嫌いになった。人が悪魔と罵るこの能力を。本当はわかっていたのに、この能力でたくさんの人を助けてあげられることを。

わかっていたのに…やはり悪魔と罵られるのが怖かった。

でも、運命のあの日。一人の少女と出会った。金髪がとてもきれいな女の子。

彼女は私の能力を笑顔で受け入れてくれた。そして彼女と一緒にいた少年たちも私の能力を見て悪魔と罵ることはなかった。

あの時、私はそのことが嬉しくてたまらなかった。初めて村の外の人が私を受け入れてくれたのだから。

それから私は、村を出てこの能力を人のために使うことを決めた。

私を導いてくれた彼女に、胸を張って生きられるように…

 

 

「ラディアお姉ちゃん、これで最後だよ」

小さな男の子がお皿を一枚差し出す。

「ありがとう、リック」

 

私はそれを受け取り、また洗い物を再開する。

リアさんたちと別れてから半年が経った。私は今、小さな町の孤児院で暮らしている。

この町に来てすぐに住む場所を探したのだが、なかなかいいところが見つからず困っていたところ、院長先生が声をかけてくれた。

どうして私に声をかけたかを聞くと、町に身寄りのない少女が来たと聞いて孤児院に誘おうと私を探していたという。

その心遣いが嬉しくて、私は彼の誘いを受けここに来た。初めて来たときは私より小さな子ばかりで戸惑ったけれど、今では彼らは私をお姉ちゃんとして慕ってくれている。

「ラディアお姉ちゃーん!」

洗い物を再開してすぐ、今度は女の子が走ってきた。

「どうしたの、エル?」

「おそとで遊んでたら、キャリーが転んで擦りむいちゃったの。治してー」

そう言うと、スカートの裾を引っ張る。私は洗い物を中断して、彼女についていった。

外に出ると、キャリーが階段のところに座って泣いている。

「キャリー、転んじゃったんだって?どこを擦りむいたのかな?」

私が聞くと、彼女は膝を指差す。そこを見ると、予想より血が出ていた。おそらく砂利のところで転んだのだろう。とりあえず、治療の前に傷口の砂をとらなければ。

「ごめんね。すぐに治してあげるから、少しだけ我慢してね」

持っていたハンカチを水で濡らし、傷口をきれいに拭く。そして手をかざした。手のひらに意識を集中する。

そうすると、傷はすぐに治った。

「どう、キャリー?もう痛くないでしょ?」

私が聞くと、彼女は泣き止み笑顔を見せた。

「うん、痛くない。ありがとう、お姉ちゃん」

「どういたしまして。ごめんね、エルとキャリーにお願いなんだけど、今日転んじゃったことと私が治してあげたことは、また院長先生やの町の人たちには内緒にしてもらえるかな?」

「うん、わかった。本当にありがとう、お姉ちゃん!」

私のお願いに彼女たちは頷き、また外で遊びだした。それを確認して私は家に戻る。

この町に来てから、私はよく能力を使うようになった。まわりが小さな子供ばかりでよく怪我をするためそのたびに能力を使っている。

でも、院長先生や町の人達にはこの能力のことがばれないように治療するたびに彼らに口止めをしている。

人のために能力を使うと決めたものの、やはり大人の前で使うことはできなかった。

子供たちはよくわかっていないから何も言わないが大人や、私と同じくらいの年の子たちは違う。

きっと、私の能力を受け入れてはくれない。彼らは…リアさんたちは特別だったのだ。

町の人達の前で能力を使って、あの時のように悪魔と罵られることが怖かった。

「こんなことじゃ、笑われちゃうな…」

少し自嘲気味に笑う。せっかく能力の使い方を教えてもらったのに、これでは無駄になってしまう。

でも…

「やっぱり怖いんです、リアさん」

一人呟く。今は遠くにいるであろう彼女に思いを馳せて…

 

 

それから数日後、事件は起きた。

キャリーが慌てて走ってくる。

「ラディアお姉ちゃん、大変なの!」

「どうしたの?」

「ごめんね、説明してる時間がないの。とにかく来て!」

そう言って彼女は私の手を引っ張る。この慌てようを見ると、よほどのことがあったのだろう。

私は黙って彼女についていくことにした。

しばらく彼女とともに走って、町の中心に来た。そこには多くの人だかりが出来ている。

「お姉ちゃん、ここだよ!」

キャリーが人だかりを掻き分けて私を導く。そこには、一人の男性が倒れていた。足は血まみれになっている。

「これ、どうしたの?キャリー」

彼に近づき傷口を見てみる。どうしてこんなことになってしまったのかはわからないが、

とにかく出血が酷い。早く治療しないと手遅れになるだろう。

「仲良しのおじさんなの。怪我しちゃって、血がいっぱい出てるの。お願いお姉ちゃん、おじさんを助けて!」

キャリーが涙を流して訴える。

私はもう一度傷口を見た。このくらいなら、確かに今の私でも治せるだろう。

でも…周りには町の人達がたくさんいる。

ここで能力を使えば、きっと…

 

私は、この町にいられなくなる。

 

この町を失ったら、どこに行けばいい?せっかく町にも慣れて、子供たちと楽しい時間を過ごして…私の居場所を見つけたのに。

(リアさん、あなたならどうしますか)

彼女ならどうするだろう?

目を閉じて考える。

でも、そんなこと…考えるまでもなかった。

泣きじゃくる彼女に笑顔を向ける。

「大丈夫よ、キャリー。私がおじさんを助けてあげるから」

私は彼の足に手をかざし、意識を集中する。周りの人なんか関係ない。私は、この人を救えるんだから。

手のひらに光が灯る。やがて、彼の傷はきれいに治った。苦しそうだった彼がゆっくりと目を開け、起き上がる。

「おじさん!」

キャリーが彼に飛びつく。彼はその小さな頭を優しく撫でた。

「キャリー、何があったんだ?どうして俺の脚は治ってるんだ?」

「ラディアお姉ちゃんが治してくれたんだよ!これでまたお仕事できるね!」

「ああ、そうだが…」

彼はかなり戸惑っているようだ。あれほどの傷がこんな短時間で治ってしまったのだ。当然だろう。

私は家に帰ろうと歩き出す。しかし、その瞬間だった。

「悪魔!悪魔がいるぞ!」

やはり、こうなるのか。事の一部始終を見ていた人達が一斉に私を悪魔と罵り始めた。

「この悪魔!お前は人間じゃない!」

「そうだよ、人間にあんなことできるわけがない。あの子は悪魔だ!」

「悪魔、この町から出て行け!」

私はそれを無視して家に戻った。本当は、無視している振りしか出来なかったのだけれど。

家に帰り、自分の部屋に入る。途端に、堪えていた涙が溢れ出した。

「ふ…ふえ…ひっく…」

涙はあとからあとから溢れ出す。きっと今日のことは院長先生にも伝わる。私はこの町から追い出されるだろう。

たとえもし院長先生が庇ってくれたとしても、町の人達が許さない。そうしたら、子供たちにまで被害が及ぶだろう。そんなのは絶対に嫌だ。

でも、行くあてなんてない。何も考えられず、ただただ泣いた。

その時だった。彼女の顔が頭をよぎった。

「リアさん…」

リアさん、あなたに会いたいです。私、またひとりになっちゃいました。寂しいです。悲しいです。少しでいいから、あなたに会いたい。

そう願ったとき、今度は彼の言葉が聞こえた。

 

君の洞察力は軍人に向いてるよ。

 

「軍…」

そうだ、軍人になれば彼女に会える。軍人になれば…

「でも私の場合、試験さえ受けられないかも…」

試験さえ受けられれば合格する自信はある。勉強も剣の稽古もロウェルが見てくれていたのだから。

しかし私の場合、ロックフォードでの件がある。今まで軍の人間がこなかったことを考えれば、彼らが私ことは伏せて報告しているのかもしれないがそれでもばれる可能性は十分にある。

それにもしばれれば、私のことを報告しなかった彼らにも迷惑がかかる。

すべて頭では十分にわかっている。でも…

 

それでも、彼女に会いたかった。

 

「ラディア、入っていいかな?」

突然部屋の外から声がした。声ですぐ、院長先生だとわかった。

「どうぞ」

私が答えると、彼がゆっくり入ってきた。

「ラディア、話があるんだ」

「わかっています。私は、出て行かないといけないんですよね」

部屋に入ってきたときの彼の表情を見ると、とても彼の口からは言わせられなかった。本当に、悲しそうな顔をしていたから。

「ああ。彼らを説得したんだが、私の力ではどうにもならなかった。本当にすまない。新しい町を、私が紹介しよう」

彼が言うが、私は首を振った。

「いいえ、その必要はないです。でも…ひとつだけ私のわがままを聞いてくれないでしょうか?」

「なんだい?」

「あと数ヶ月だけ、ここにおいてください。私、軍に行きます。試験が終わったら出ていきますから、それまでおいて欲しいんです」

それを聞いて、彼はとても驚いていた。それはそうだろう。軍人は、もっとも危険な職業なのだから。

「それは全然かまわないが、軍なんて…。何もそんな危険な場所に行かなくても」

「いいえ、もう決めたんです。そこに、会いたい人がいるんです」

そう言う私の目を見ると、彼は少し溜息をついた。

「わかった。君が決めたことなのだから、好きにするといい。でも、受けるからには必ず合格して来るんだよ。私の自慢の娘なのだから。周りがなんと言おうと君は悪魔なんかじゃない。天使のような、素敵な女の子だよ」

そう言って、私を抱きしめてくれた。私も、彼を抱きしめ返した。

「うん、絶対に軍人になるわ。私は、あなたの自慢の娘なんだから…」

 

 

そして数ヵ月後。

「ラディアちゃーん。そろそろ時間だよー!」

「はーい、いま行きまーす」

私は無事試験に合格し、こうして軍人として生きている。

どうやら軍に私のことはばれていなかったらしい。少し安心した。

でも、いつばれるかわからない。私は少しでもばれる確率を下げるため、違うラディア・ローズを演じ始めた。

活発で、子供っぽくて、少し常識はずれの女の子。

それに、こっちのラディア・ローズの方がいろんな事を教えてもらえる。彼女たちの情報も、聞きやすかった。

先輩たちの話によると、どうやら彼らはあの事件以来三人で仕事をすることが多くなったらしい。そして三人とも寮で暮らしているようだ。運がよければ、寮で会えるかもしれない。

そう思うと、これからがとても楽しみになった。

(絶対に会いに行きますからね、リアさん)

新たな目標とともに、彼女は走り出した。

 

 

 

 

 

これは、彼女が軍に入る少し前。

大総統室に、二人の人間がいた。

一人は、現大総統アレックス・ダリアウェイド。そしてもう一人はその補佐ルーク・ルフェスタ。

「閣下、本当にいいのですか?彼女を入隊させて」

「彼女とは、誰のことかな?今年は入隊者が多かったからわからないのだが」

「とぼけないでください。ラディア・ローズのことです。彼女は、ロックフォードの件に関わっている可能性があります。あなたも知っているでしょう?村長の家にいた娘の名前を。ローズなんて姓、そうそうあるものではありません。年齢も近い。それに、フォース中尉たちの報告書だって、よく読めばおかしい点がいくつかある」

「しかし、彼女の成績はトップクラスだ。それはきちんと認めなければな。それに、もし彼女が本当にあのラディア・ローズだとしても関係ないよ。彼女が軍にとって…人々にとって有益な存在であってくれれば。過去なんて、そんな無粋なものでその人を評価するようなことは、私はしたくない」

「ですが…もし彼女が犯罪者だとしたら、それがばれたら軍の評判はガタ落ちです」

「もし彼女が犯罪者だったとしても…彼女がそうであろうとする限り、彼女は犯罪者ではなく、立派な軍人だよ。国と部下を守るのが、私の仕事だ」

「…わかりました。私はもう何も言いません」

ルークが溜息をつく。それを見て、アレックスが立ち上がる。

「さて、そろそろ行こうか。確かもうすぐ会議の時間だろう?」

「はい。では参りましょう、閣下」

そうして、大総統室には誰もいなくなった。

あるのは執務机の上の、一枚の書類だけ。

彼女の…ラディア・ローズの試験結果。

 

 

ラディア・ローズ

筆記試験 第二位

実技試験 第一位

総合順位 第一位

 

この結果を、彼女は知らない。そして、今日のここでの会話のことも…。