かつては数名の軍人が運試しをしていた場所。

くつろぎ、言葉を交わしていた場所。

それが、第三休憩室。

「レヴィってば強いよ…」

「まぁね。ボク得意だから」

今は新兵の遊び場だ。

「レヴィがチェスできるなんてな…」

「お母さんとやってるからね。このセットだってさっき大総統室行って借りてきたんだよ」

「…そんなことして良いのか?」

「仕事とプライベートのけじめつけなさいって怒られたけど、結局貸してくれたよ」

ルーファは半分呆れながら、レヴィアンスとニアの試合を見つめていた。

 

軍に入ってからもうすぐ一ヶ月になる。

この一ヶ月の間に、この環境には大分慣れた。

人間関係も結構円滑だ。

「何やってるんだ?」

「大尉!」

「ダイさん…」

多分、円滑だ。

ルーファだけはこの人物が苦手だが。

「チェスか」

テーブルの上のチェス盤を見て、ダイは興味深げな顔をする。

「そうなんです。レヴィがすっごく上手なんですよー」

「へぇ…」

ルーファはこのあたりで嫌な予感がしていたが、ニアとレヴィアンスは何も感じないらしく、

「俺も手合わせ願いたいな」

こう言われてあっさり承諾した。

「本気でやっていいよ」

「はい!」

こうしてレヴィアンスとダイのチェス勝負が始まったのだが、

「………」

「………」

勝負は意外に早くついてしまった。

「レヴィの勝ちーっ!」

「ちょ、ニア…」

ニアの発言をルーファは慌ててごまかそうとするが、時すでに遅し。

がたんっ!

「?!」

ダイが勢いよく立ち上がったため、椅子とテーブルが大きな音を立てた。

ルーファとレヴィアンスはその場で固まり、ニアは目を丸くしていた。

「…とても楽しかったよ、レヴィ。本当に強いんだね」

ダイはいつもの笑顔だが、ルーファとレヴィアンスにはその裏が見えてしまった。

何か黒いものが見える。ぐるぐると渦を巻いている。

恐すぎるよ、この人。

「また今度やらせてもらっていいかな?」

その前に殺られそうだ。

「…はい」

レヴィアンスはすでに半泣きで震えている。

ルーファはこの状況をどうすればいいか考えるが、何もできない。

ニアだけが空気を読めていないようだ。

そんな重い空気の中、ドアが静かに開いた。

 

「ニア君、ルーファ君、いる?」

「アーシェちゃん!」

金髪を揺らして、可愛い女の子が部屋に入ってくる。

ルーファとレヴィアンスは心の中で大喜びだ。

アーシェはダイに会釈し、真っ黒オーラをさらに減らした。

彼女の功績は大きい。

「レヴィ君と大尉もいるならちょうどいいかな」

「どうしたんだ?アーシェ」

「うん、実はね…」

アーシェが言いかけたところで、レヴィアンスが椅子を用意する。

彼なりの感謝の気持ちだ。

「ありがとう。…実は、私の従姉が軍に入ることになったの」

「従姉?」

「そう。私にとってはお姉ちゃんみたいなものね。昔からよく遊んでくれたの」

アーシェにそんなに仲の良い従姉がいるなんて、聞いたことがない。

「どんな人?」

ニアが訊くと、アーシェはにっこり笑った。

「とっても優しくて、料理が上手で、いろいろ教えてくれるの」

いいことしかあげない。本当にその従姉が大好きなのだろう。

アーシェがそこまで言うのだから、いい人に違いない。

「楽しみだな、その人に会うの」

「明後日以降に来るみたい。本当にいい人なの」

「アーシェの従姉かー…」

ニア、ルーファ、レヴィアンスの想像は共通して「アーシェのように可愛くておしとやか」だ。

何しろアーシェは大会社の社長令嬢だ。その従姉なのだから、きっとお嬢様だ。

そうなるとどうして軍に入ったのかが不思議だが、アーシェに関しても同じ事が言えるので特に気にしないことにした。

「…そういえばダイさん、この前の入隊試験の筆記監督でしたよね。

アーシェの従姉っぽい人いましたか?」

ルーファは思い出して尋ねてみる。

ダイは口元に手をあて、少し経ってから短く声をあげた。

「見た」

「本当に?」

「どんな人ですか?」

「…そうだな…可愛いというよりは美人だな」

「美人?」

「そう、俺の好み」

「…そんな事訊いてませんよ」

アーシェの従姉がどんな人かという話で、その日はずっと盛り上がっていた。

アーシェ自身はそれを笑いながら聞いていたが、果たして実像はいかに。

 

おそらく今日が当日だ。

先日の試験に合格した新兵が何人か来ている。

「試験の順位更新になったんだよね?」

「らしいな。…俺とニアは不動みたいだけど」

再び張り出された試験順位は、いくらか変わっていた。

どうやら三位、五位あたりに人が入って変動があったらしい。

「でもやっぱりアーシェが女子トップみたいだな」

「その前全部男みたいだね。やっぱり体力差かなぁ」

「ニアが何で二位なのかやっぱり不思議だけどな」

「…ルーの意地悪」

軽口を叩きながら時計を見ると、教練の時間が近付いていた。

掲示板の前から動き出そうとした二人を、

「おい、おまえら」

知らない声が呼び止める。

「…何ですか?」

ルーファは振り返り、一瞬でバッジを確認する。

色は、赤。

――曹長、か。

たまにからんでくる者がいるということは聞いていたが、本当に会う事になるとは。

「そこ退けよ。これだからガキは困る…」

ニアを軽く突き飛ばし、彼は二人を見下す。

心底馬鹿にしたような視線。

「新兵は新兵らしく練兵場のすみで格闘ゴッコでもしてろ」

「そんな言い方…」

「ニア、行くぞ。関わると厄介だ」

ルーファはニアの手を引こうとするが、

「厄介だと?!」

その前にニアは吹っ飛ばされた。

「ひゃあうっ!」

「ニア!」

壁に思い切り打ち付けられ、立ち上がれない。

力が、入らない。

「…っ」

「ニア、大丈夫か?」

ルーファが駆け寄ると、ニアは小さく頷いた。

曹長はさらに悪態を吐きつける。

「てめえら見てるとむかつくんだよ。ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあと…」

相手の手に握られているのは軍支給の棍らしい。それでニアを殴りつけたのだ。

「軍人がこんなことしていいのか?!」

「防げない方が軍人としてどうかしてるだろ」

理不尽だ。こんな奴がどうして軍にいるんだろう。

――せめてダイさんでもいれば…

周囲に人が見えない。タイミングが悪すぎる。

闘うしかないのか。

ルーファはニアを気にしつつ、身構えた。

相手が馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「てめえもオトモダチとおそろいにしてやるよ!」

相手が棍を大きく振り上げる。

ここから退く訳にはいかない。

ニアをこれ以上傷つけるわけにはいかない。

「ルー、だめ!誰か呼んできた方が…」

ニアの言葉にあえて逆らう。

振り下ろされた棍は、真っ直ぐにルーファへ

「ぐほぁあっっ?!」

…は、届かなかった。

相手は横に倒れ、壁に頭を打ちつけた。

一瞬のことで、何が起きたのかルーファにもニアにもさっぱりわからない。

ただ、一つ理解できたのは、

 

自分たちを助けてくれたのが、バッジをつけていない少女であること。

 

漆黒の長い髪が揺れた。

差し出された手と、女性にしては少し低めの声。

「大丈夫?」

「…大丈夫、です…」

ニアはゆっくり立ち上がり、ルーファに歩み寄った。

「ルー、大丈夫?」

「無傷。…そこの人のおかげ」

ルーファは改めて少女を見る。

自分より背が高く、この国の軍服にしては長めのスカートを穿いている。

眼の色は、綺麗なライトグリーン。

「…あれ、もしかして…」

ルーファが言いかけたとき、少女は走り出した。

二人の横を駆け抜け、突き当たりの角を曲がって消えた。

「…ルー、あの人かっこよかったね」

「…あぁ」

まさかな。

ルーファはそう思い直し、ニアの手を引いた。

 

教練の合間の休憩時間中、ニアとルーファはさっきあったことをレヴィアンスに話していた。

「とにかくね、すごかったんだよ!何したかわかんないけど、曹長の人倒しちゃうんだもん!」

「すっごいね。そんなに強い女の子が入ってきたんだ…」

レヴィアンスも感心しているようだ。

実際に見た方はさっきの光景を忘れられず、思い出しては溜息をつく。

「そんなに強いんだったらきっと上位の方だよね。それらしい名前あった?」

「いや、アーシェの前まで全部男だったと思う。女の名前は見てないな…」

ルーファは成績順位表を思い出してみるが、やはりそれらしい名前はない。

「あの人、一体…」

「何の話?」

「?!」

突然横から割り込んできた声に、ルーファは過剰な反応を示す。

レヴィアンスも思わず飛び退いた。

「ダイさん…」

「た、大尉…」

「何の話してたんだ?」

急に割り込まないで欲しい。

どうしてこの人は神出鬼没なんだ。

「えっと、曹長の人が僕たちにケンカ売ってきたんです。それから…」

「謎の少女が現れて助けてくれて、それが一体誰なのかってとこまで聞いた」

しかも全部聞いてるし、この人。

「ダイさん、知ってますか?」

「知らない。俺実技は見られなかったから」

「黒くて長い髪の子なんですけど…」

ルーファが特徴を言った時、ダイの表情が変わった。

笑みを浮かべていた口元が驚愕を作った。

ダイは少し考え、ぽつりと言う。

「それ…アーシェの従姉じゃないかな」

練兵場に、大総統室まで聞こえるほどの驚声が響き渡った。

 

昼休み、ニアとルーファとレヴィアンスはアーシェが来るのを待っていた。

アーシェは従姉の身体的特徴を言っていない。もしや、ということもある。

何が何でも確認をとりたかった。

「もしあの人がアーシェちゃんの従姉だったら…」

ニアはアーシェと少女を並べて想像し、首を傾げる。

「アーシェと全然違うよな。金持ちのお嬢には見えない」

親に話して情報を仕入れておくべきだった、とルーファは少し後悔していた。

「でも過去には物凄く強いお嬢様将官もいたわけだし、おかしくはないんじゃない?」

レヴィアンスは有名な人の話を持ち出す。

「問題はそこじゃない。アーシェと比べてっていうことだろう」

ダイはレヴィアンスの軌道修正をする。

「…って何でダイさんがいるんですか?!」

「大尉さっきまでいなかったのに!」

「いちゃ悪いかい?」

「いや、別に…」

四人がわいわいやっているところに、

「何やってるの?みんな…」

高音の可愛らしい声が届く。

「アーシェ!」

「アーシェちゃん、ちょっと話が…」

アーシェの方を見た途端、ニアとルーファの動きが止まった。

正確には、アーシェの後ろの少女を見て。

「…あ、アンタたち、さっきの…」

少女もニアたちに気付いたらしく、それなりの反応を返す。

少し冷めた口調だ。

「じゃあ、さっきグレイヴちゃんが助けたのってニア君たちだったんだ」

「そうみたいね」

アーシェと少女はそう言って顔を見合わせたが、改めてニアたちに向き直った。

「えっと、この人が私の従姉のグレイヴちゃん」

アーシェが紹介した少女の名を、ルーファは思い出す。

掲示板にその名は確かにあった。

「五番だ!」

「え?」

「成績五番の名前。男かと思った…」

ルーファの発言に、グレイヴは少し顔をしかめた。

「悪かったわね、男名前で…」

「いや、そういうつもりじゃ…」

ルーファが慌てると、アーシェが笑顔で言う。

「グレイヴちゃんの名前はね、叔父さんがつけたの。

男の子みたいだけど、覚えやすくて素敵じゃない」

その言葉を聞いて、グレイヴは少し嬉しそうだった。

アーシェのフォローでこの場は何とかなり、昼食をとりながらのおしゃべりタイムが始まった。

「ねぇ、グレイヴってもしかしてブラックさんの娘?」

レヴィアンスの問いに、グレイヴは少し戸惑っているようだった。

「そう、だけど…何で知ってるの?」

「やっぱり!そっくりだもん。

ボク、前にブラックさんがお母さんに会いに来たの見たんだ」

「お母さん?」

グレイヴの疑問にはアーシェが素早く対応する。

「レヴィ君のお母さんは大総統さん」

「あぁ、鍛冶屋の孫…」

「そう!ボク曾孫ね」

グレイヴは大総統を鍛冶屋の孫と認識しているようだ。

確かに間違いではないが、珍しい認識だ。

スティーナ翁はこの国屈指の名鍛冶で、剣などを扱う者の間では尊い存在。

逆に刃物を扱うことのない者には名前だけ知られる程度だ。

「グレイヴって、剣とか使うんだ?」

ルーファの推理に、グレイヴは頷く。

「剣じゃなく刀だけど」

「どこかで教わった?」

「父さんに」

短い答えだが、理解に苦しむことはない。

彼女は寡黙だが、質問にはきちんと答えてくれるようだ。

「グレイヴの父親はよくうちに料理習いにきてるけど」

「…アンタの?」

ダイの言葉には怪訝な表情で返す。

しかも上司なのに「アンタ」だ。

「グレイヴちゃん、この人大尉だよ…?」

「わかってる。なんか階級って呼びにくくて」

アーシェが言っても、これは変えるつもりはないらしい。

「…考えてみればすぐわかったことだよな。

アーシェの従姉っていったらリアさんかアルベルトさんの兄弟の子供だし…」

やっぱり親に聞いておけば良かった、とルーファは息をついた。

「アーシェの家のこと知ってるの?」

「両親同士が知り合いなんだ。

…特にグレイヴの親は俺の父さんと犬猿の仲らしいし」

その言葉でグレイヴの方も何か察したようで、再びルーファに話し掛ける。

「ルーファの父さんってカイ・シーケンスさん?」

「あたり。グレイヴも聞いてたんだな。

ついでに言うとニアはインフェリア。聞いた事あるだろ?」

「前大総統と同じね」

「息子なんだよ、僕」

「…にしてはあんまり強くないわね」

「グレイヴちゃんも酷いこと言う…」

楽しそうに会話している伍長組。

それを見ている大尉は、相変わらず爽やかな笑顔を浮かべている。

ただし、

「ルーファ」

「!」

笑顔の裏は真っ黒だ。

「いつもよりお喋りじゃないか?」

「………!」

やばい、完全に目の敵にされた。ていうか何で俺だけ。

ルーファの思考が出した結論は、「これ以上は喋れない」。

――そういえばダイさん、グレイヴが好みだって言ってたっけ…

これは嫉妬というものなんだろうか。

だとしたらあまりに大人気ない。

ルーファはダイに気付かれないよう、溜息をついた。

 

午後からは事務の手伝いだ。

コピーなどの雑用は新兵任せ。

「ルー、コピー機動かないよー」

「電源入ってないぞ」

コピー組は前途多難なようだ。

一方、アーシェとグレイヴは資料を運んでいた。

「ここが第三休憩室よ。こっちにいくと面会室があるの」

「わかった。…結構複雑になってるね」

「お父さんはよく迷ったみたい。叔父さんがちょっと呆れてたよ」

「そう…」

アーシェは歩きながら内部の説明をする。

目的とする場所まではまだ距離があり、急がなければならないので早足だ。

それでも会話は普段と変わらない。

「グレイヴちゃん」

「何?」

「どうして…ここに来たの?」

急にアーシェの表情が真剣なものになる。

軍は危険だ。何があるかわからない。

グレイヴはかつてアーシェの入隊に反対した。

そして今、ここにいる。

多分それは、まだアーシェの入隊に納得していないからだ。

「グレイヴちゃん、私ね」

「アーシェっ!」

タイミングよくアーシェの言葉は遮られた。

追いかけてきた小さな緋色は、立ち止まって肩で息をする。

「レヴィ君…」

「パソコン変になっちゃったんだ。見てくれる?みんな忙しそうで…」

「うん、わかった。でも資料が…」

「アタシが運んでおく」

アーシェが抱えるファイルに、グレイヴが触れた。

「え、でも…」

「場所は誰かに訊く。アーシェはレヴィを手伝ってあげなさい」

手ぶらになったアーシェは、申し訳なさそうに笑う。

グレイヴはそれに優しい笑みを返した。

「…じゃあ、お願い。行こう、レヴィ君」

「うん」

ごめんね、という言葉と、駆けて行く足音。

独りになった廊下を歩く。

――独り、か。

また取り残されてしまった。

ずっとアーシェとは一緒だと思っていた。

だけどアーシェは、自分よりも先に行ってしまう。

――アタシ、何でここにいるんだろ…

アーシェを守りたかった。

幼い頃からそうだったように、守り続けたかった。

だけどアーシェはすでに頼られる側の人間になっている。

もう自分は必要ない。

歩みを止めかけた、ちょうどそのとき。

「グレイヴ」

妙に爽やかな声が、自分を呼び止めた。

「仕事かい?」

「………」

確か、彼は大尉。

ダイ・ホワイトナイト大尉だ。

「重そうだな。持とうか?」

「いい」

「遠慮しなくてもいいのに」

「してない」

第一印象からして、この男は苦手だ。

今まで周囲にこういうタイプがいなかったからかもしれない。

父は寡黙で無愛想だし、伯父はほのぼのしているが少々挙動不審だ。

ダイのような人間は、周りにいなかった。

「今日来たばかりなのに、半ドンじゃないんだな」

「父が迎えにくるから」

「それで終日頑張るんだ。偉いな」

そんなに話し掛けないで欲しい。答えるのが億劫だ。

大体、

「なんでついて来るの」

さっきからずっと横に並んで歩いている。

いつまでこうしているつもりだ。

「同じ方向なんだ。グレイヴはどこに行くんだ?」

「…外部連絡受付係」

「じゃあ同じだな」

着くまでコイツと一緒か。

グレイヴは思わず舌打ちしそうになったが、何とか抑えた。

「何で軍に入ったんだ?」

しかも今一番答えたくない質問をされる。

離れようと早足になると、それにあわせる。

――何なのよコイツ!

ストーカーと思って、大総統に訴えてもいいだろうか。

「グレイヴ」

「………」

「グレイヴってば」

「………」

「グレ」

「うるさい!何!」

しまった。

怒鳴ってしまってから、彼はそういえば上司だったということを思いだす。

敬語を使う気はなかったが、さすがにこれはまずい。

しかし、この爽やかさの裏の本性を暴くのも面白いかもしれない。

そう思ってダイの方を見たが、

まだ鬱陶しいくらい爽やかな笑顔を浮かべていた。

「外部連絡係、ここだけど」

しかも屈辱の台詞つき。

「…そ、そう」

赤面するグレイヴに、ダイはさらに爽やかさを増した笑みを見せる。

「グレイヴは可愛いな。やっぱり俺好みだ」

グレイヴは自分の中で何かが弾けたのを感じた。

 

「あー、見て見てルー」

「どうした?」

大量のコピーを終えて、漸く休憩時間に入った二人。

この部屋の窓からはちょうど練兵場の一部が見える。

「あれ、グレイヴちゃんだよね?」

ニアが指差す方を見ると、確かに練兵場にグレイヴの姿があった。

ルーファはニアの言葉に頷き、彼女を見ていた。

そのあとは一瞬だった。

グレイヴの前に置いてあった剣技訓練用の藁束が、姿を消した。

この刹那に何が起こったのか、ニアとルーファは理解するのに数秒を要した。

「…今、切り刻んだの?」

「あぁ…あれじゃ微塵切り…」

刀を鞘に収める少女に、ニアはどう反応して良いかわからず、ルーファはただただ震撼した。

後でアーシェにこっそり聞いてみたところ、彼女はあっさり答えてくれた。

「多分ちょっとご機嫌斜めだったのよ」

ちょっとじゃすまないと思うが。

 

逆にダイの方は機嫌がよさそうで、ルーファはそれを別の意味で怖れた。

不安要素が増え、彼の溜息も増すばかり。

 

ところで例の曹長は謹慎処分ということだ。

「どっちにしても頭を横から思い切り蹴られれば、ショックで出て来れないだろうけどね」

「ハル…それ蹴った方も処分とか…」

「しないよ」

「………」

大総統補佐アーレイド、最近大総統の考えがわからなくなってきました。

 

 

To be continued…