人は変わるものだ。
良い方向にも、悪い方向にも。
後者ならば良い道へ引き戻し、
前者ならば認める。
簡単なように見えて難しい。
足が痛む。
相手の攻撃を防げないなんて、情けない。
それ以上に、守ろうとした者に助けられてしまった事が情けない。
痛みの向こうで聞いた言葉が、まだ耳に残っている。
「本当に休まなくて良かったのか?」
父の声で我に返って、頷いた。
「…そうか」
車のドアが開いて、いつもの場所へと。
「グレイヴちゃん、大丈夫?」
アーシェが心配そうに尋ねる。
何故グレイヴが足を怪我したのか、彼女は理由を知っている。
現場を見たのだから。
「休んでなくていいの?」
「休んだらアーシェに弁当届けられないでしょ」
「無理しなくて良いよ。食堂もあるし…」
「そんなことより、同居人決まったんだって?」
「…うん」
いつもならアーシェの話を遮るなんてしないはずなのに。
今日のグレイヴは、何かおかしい。
怪我の所為だろうか。
「どんな人?」
「二歳年上の軍曹さん。優しい人よ」
「そう。良かったわね」
グレイヴはもともと口数の多いほうではない。
でも、今日はいつにも増してそっけない。
昨日のことでショックを受けたのだろうか。
強い彼女が負けてしまうことは、それまでなかったから。
あったとしても、アーシェは負けた彼女を見たことがない。
グレイヴの態度について心配しているのはアーシェだけではない。
どこか変だという事は他の者も気付いていた。
「元気ないよね、グレイヴちゃん」
ニアがそう言うと、ルーファは息をついた。
「ニアにもわかるほど…な」
グレイヴが足を痛めている事はアーシェから聞いた。
その原因は知らないが、その所為でグレイヴは落ち込んでいる。
「ボクたちで励ませたら良いんだけどねー。どうやったらグレイヴが喜ぶかわからないよね」
「レヴィの言う通りだよね。僕たちグレイヴちゃんの事あんまりよく知らないし…」
多くを語らない少女について、一番よく知っている者もほとんど語らない。
任務や普段の仕事で、自分達は仲間だと思っている。
だけど、グレイヴは本当にそう思っているのだろうか。
ルーファにとっては彼女だけでなく、アーシェも何を考えているのかわからない。
「女子は秘密主義なのかな…」
「何?ルー何か言った?」
「いや、何でもない」
自分達はまだ互いの事を知らなさ過ぎる。
その日の仕事を終え、寮組と自宅組は別れた。
寮組――ニア、ルーファ、レヴィアンス、アーシェはいつものように会話する。
「ねぇ、アーシェちゃんはどうしたらいいと思う?」
話題はいつもと少し違うが。
「どうって?」
「グレイヴちゃんが元気ないから、励ましたいんだ」
「…グレイヴちゃん?」
アーシェが立ち止まり、目を丸くする。
それに構わず、ニアは続けた。
「アーシェちゃんなら従妹だから、どうしたらいいかわかるかなって。
皆元気じゃないと心配だから」
「グレイヴはいつものグレイヴが良いよ。
大尉が話し掛けたら藁束微塵切りにするグレイヴがさ」
レヴィアンスもそう言い、アーシェは少し考える。
グレイヴのためにできること――アーシェにもわからない。
強い彼女しか見たことがないと、弱った時にどうすればいいかが思いつかない。
俯いてしまったアーシェの肩を、ルーファが軽く叩いた。
「深く考えないでさ、グレイヴが好きなものとか教えてくれるだけでもいいんだ。
…確かかぼちゃコロッケが好物だったよな?」
「うん…」
「他になんかないかな?俺たちじゃ料理できないから、できそうなもので」
大切な人のためにできること。
自分達が彼女のためにしてあげられること。
「…グレイヴちゃん、うさぎのリンゴが好きよ」
「うさぎ?」
「うん。前に叔父さんが作ってくれた時に、嬉しそうだった」
「…叔父さん?」
「そう、ブラック叔父さん」
アーシェが頷いた時、ルーファは石と化した。
「…ルー、どうしたの?」
意外すぎたんだよ、ニア。
自宅組――ダイとグレイヴは普段全く話すことなく別れる。
グレイヴにいつも迎えがつくこともあり、話す暇などないのだ。
しかし、今日は状況が違った。
「迎えに来ないのかい?」
車を待たずそのまま行こうとするグレイヴを、ダイが呼び止める。
いつものように視線だけ向けて応えた。
「近くの店で買い物するから、そこで待ち合わせ」
「足痛いのに?」
「店に車を停めておくスペースがないの」
それはダイもよく知っていた。
ならば親に頼めば良いのに。
「ついていこうか?」
「来ないで。近寄らないで」
「…酷いな」
挨拶もなしに行ってしまう後姿を、ダイはじっと見つめていた。
先日のこともあり、心配だった。
「胸騒ぎってこういうのか…?」
嫌な事が起こりそうで、落ち着かない。
足の痛みはあまり感じない。
これが一時的なものであることはわかっている。
すぐにまた激痛が走り、痛み止めに頼ることになる。
何かに頼るのは嫌なのに。
弱みを見せたくないのに。
それなのに、今の自分は弱い。
心配されてしまうほど弱くて、情けない。
買い物を終えて店を出ると、雨が降っていた。
「最悪…」
呟いて、父が来るのを待つ。
雨は嫌いだ。頭痛がする。
今日は帰ったら寝てしまおう。夕食の準備は父にもできる。
「お嬢さん」
暗い気分になっているときに掛けられる声は鬱陶しい。
仕方なく顔を上げると、男性が微笑んで立っていた。
「…何ですか?」
「君に用事がある。一緒に来てくれるね?」
「用事?」
知らない男だ。用事なんて怪しすぎる。
グレイヴは後ずさりし、男から離れようとした。
しかし、
「…っ?!」
後ろにいた誰かに口を塞がれた。
「一緒に来なければならないんだよ。
…恨むなら自分の父親を恨めよ」
意識が落ちていく。
男の声が頭に響いて、消えた。
ハルが受話器を取ったのは、ちょうど夕食時だった。
「はい、スティーナです」
『ハル君、私よ!』
「…リアさん?どうしたんですか?」
よく電話で話したりしているが、こんなに焦った彼女は何年かぶりだ。
普段穏やかで優しい声が、今は震えている。
『本当は電話は止められてるんだけど…でも、緊急事態なの!』
「緊急って…何かあったんですか?!」
『助けて欲しいの!姪が…グレイヴちゃんが…っ!』
全く表情を変えたハルが受話器を置く。
アーレイドは彼に近寄り、その報せを聞いた。
「アーレイド、寮内にいる尉官以上の人をお願い。
でもあまり公にしないで。命に関わるから」
「…何があったんだ?」
「誘拐事件だよ。…グレイヴ・ダスクタイト伍長が誘拐されて、ブラックさんが犯人に呼び出されたって」
ブラック君が、アルベルトさんにだけ連絡してくれたの。
軍に言ったら駄目だって犯人は言ってるみたいなんだけど、ブラック君一人じゃどうにもならないわ。
だから、お願い。
姪を…グレイヴちゃんを、助けて…!
報せはアーシェのもとにも届いた。
新人伍長なので出動はできない。それがもどかしい。
助けたいのに、助けられない。
「…なんで…何でグレイヴちゃんが…」
流すまいと決めていたのに、涙は溢れる。
足を痛めていたし、精神状態も良くはなかった。
どうしてこんな時に、こんなことになってしまうんだろう。
どうしてグレイヴだったんだろう。
もし二度と会えなくなったら…
「アーシェちゃん、何かあったの?」
優しく掛けられる声に、アーシェは縋りつく。
「オリビアさん…グレイヴちゃんが…グレイヴちゃんがぁ…っ」
自分にはどうすることもできない。
心配で、悔しくて。
「大切な人も助けられないで…なんで私軍人なのぉ…っ?!」
「アーシェちゃん…」
現場に行けば足手まといになるのはわかっている。
どうしてこんな時に、自分は無力なんだろう。
その気持ちはオリビアにも伝わってくる。
涙に触れて、どうにかしてあげたいと思う。
「…今は祈るしかできない。彼女が助かるように」
こんな言葉しかかけられない。
オリビアもまた、無力だ。
その時、部屋の電話が鳴り出した。
オリビアはアーシェの頭をなで、電話の方へ向かった。
一人になったアーシェは、服の胸のあたりをぎゅっと掴んだ。
祈るしかできない。
祈りがなんになるんだろう。
こんな遠くで祈って、本当に届くのだろうか。
「グレイヴちゃん…」
自分なら良かったのに。
彼女が辛い思いをする必要はないのに。
「アーシェちゃん、涙を拭いて!」
「…?」
気がつくとオリビアは電話を終えて、アーシェの目の前にいた。
「涙を拭いて、支度するの。…グレイヴちゃんを助けに行こう」
真剣な表情で、信じられない言葉を告げる。
彼女は、本気だった。
想定していた事態だった。
昔から――ブラック自身が軍人だった頃から、想定していなければならなかった。
「何でアイツが…」
呟いて、心のどこかで嘲笑を聞く。
「何で」だと?それは自分が一番よく知っているじゃないか。
軍人時代、何人もの犯罪者を自分の手で殺してきた。
どれも極悪犯だった。捕まれば、どうせ死刑か終身刑になる。
しかし、彼らにも家族がいた。
ある者は兄弟がおり、ある者は子がいた。
「殺人者ブラック・ダスクタイト」を恨む者は数多く存在する。
同じ苦しみを味わわせてやろうという者がいる。
彼らは家族を失った。しかし、ブラックには家族がいて、のうのうと生き暮らしている。
復讐心はブラック本人だけでなく、周りをも巻き込む。
グレイヴはその所為で、過去に何度も誘拐されかけた。
家族を失う辛さを、ブラックに思い知らせるために。
今まではブラックが気をつけてきた。
しかしグレイヴが軍に入ってから油断していた。
「馬鹿野郎…っ!」
自分はどうしようもなく愚かだ。
一度兄を失いかけたのに、今度は娘を…。
車を停め、目的地を睨んだ。
廃工場の倉庫――民家は遠く、事件があっても気付かれ難い。
「お嬢さん、父親から何も聞いていないのか?」
「娘には知られたくないだろうよ。イイオトウサンなんだ」
男が二人。周りは暗闇。
足の痛みが酷い。束縛する縄を解いても立てないだろう。
「イイオトウサンが娘を軍人に…人殺しにするか?」
「そう育てた方が楽だろ」
男達の会話の意味がわからない。
いや、わかりたくない。
父は確かに軍人だった。しかし、
「人殺しは子供も人殺しに育てる。
奴は何も悪いとは思っちゃいないのさ」
彼らが言っているようなことは、絶対にしない。
そう、信じたい。
「兄貴は腹を割られたんだよな?」
「あぁ、容赦なく内臓晒されて…苦しんで死んだ」
「お嬢さん、悪いが…あんたもそうなる。
あんたが人殺しになってしまう前にな」
未来を告げられる。
その未来が父の過去と関係しているなど、考えたくない。
しかし、彼らの話を聞いていると辻褄が合ってしまうのだ。
昔からよく誘拐されかけたという事実と。
…もうやめよう。
考えるのをやめて、このまま消えてしまおう。
どうせ自分の存在理由など、ないのだから。
「終わりだ、お嬢さん。…オトウサンが来たようだぜ」
中身を晒されるなんて、嫌な最期だ。
闇の向こうに見える影は、自分の所為で辛い思いをしている者。
責任をとらなければ。
「娘は解放してくれ」
「馬鹿言うなよ、ダスクタイト。お前は苦しませてから殺すんだ。
娘の死に様よく見ろ。それから後を追え」
「娘は関係ない」
「軍に入ってるってことは人殺し予備軍だろ?今のうちに駆除しとくんだよ」
「違う!全く関係ねーんだ!」
「お嬢さんを解放して欲しかったら、俺達も兄貴みたいに殺せば良いだろ。
それとも娘の前では人殺しになりたくないってか?」
昔のように、目の前の輩を斬り捨ててしまえばそれで終わる。
しかし、もう殺したくなかった。
ブラックが殺したのは、実父で最後だ。
最後にしたい。
「早く俺らを殺せばいいじゃんか」
「じゃないと娘が死ぬぞ」
わかっている。自分が何もしなければ、グレイヴは殺される。
人を殺せば全てを失う。
それでも…
それでも、娘が生きられるのなら。
床に銃が転がっている。
わざと置かれたものである事は間違いない。
計略に嵌ろうがなんだろうが、
それで救えるなら…
男の手が娘に伸びる。
それが視界に入ったとき、ブラックの手は銃へ
「そこまでだよ」
闇を白く変える照明は、男二人の目を眩ませた。
いつの間に壊されていたのか、四方の壁から人が入ってくる。
「…軍か…っ!」
「正解です」
突入してきた軍人の一人が、不敵に笑った。
「さぁ、人質を解放してもらおうか」
「そうはいかないな。軍を呼んだら殺すって約束なんだ」
男はポケットに手を入れ、何かを探した。
しかし、探しても出てくるはずはない。
それはすでに、
「ナイフなら回収しました」
一人の少年兵の手に収まっていた。
「クソッ!このガキが!」
取り返そうと手を伸ばせば、
「それ以上進むと痛いぜ、オッサン」
もう一人の軍人に刃物を突きつけられる。
男達が動けないでいる間にグレイヴは助けられ、
ブラックの横には国のトップが立っていた。
「ちょっと頭悪かったですね。…軍を甘く見ないで下さい」
心配されてしまった。
どれほど迷惑をかけたか、自分を抱きしめる父の力でわかる。
「父さん…」
「すまない。本当に…すまなかった」
どうして謝っているのだろう。
軍人なのにあっさりさらわれてしまった自分が悪いのに。
「父さん、放して」
「…あぁ」
大切な人も守れない、
自分すらも守れない、
弱い自分の所為なのに。
そのせいで、
「グレイヴちゃぁんっ!」
アーシェも泣かせてしまった。
「…アーシェ…?なんで、いるの?」
「連れてきてもらったの。本当は私、来ちゃいけなかったんだけど…
でも、オリビアさんが…」
ブラックはグレイヴから離れ、少年兵たちのもとへ行った。
泣きじゃくるアーシェを、グレイヴはただ見ていることしかできなかった。
周囲は騒がしいのに、音がわからなかった。
意識はまだ静寂の闇にいた。
全てが終わり、アーシェは就寝の準備をしていた。
グレイヴのことが気になったが、自分の立場ではあの場に長くとどまることはできなかった。
「…オリビアさん」
「何?」
「どうして私を連れてってくれたんですか?」
オリビアも軍曹という立場ではあの場にいられないはずだ。
それなのに、アーシェをグレイヴに会わせてくれた。
「…あなたを連れて行けば、グレイヴちゃんの恐怖が軽くなるんじゃないかと思ったの。
大好きな人に会えば…って」
オリビアはにっこりと笑った。
「助けたかったの、彼女を。
恩師の娘さんには、こんな所で終わって欲しくない。
彼女は先生みたいな素敵な人になるわ」
翌日の仕事は休むものだと思っていたが、
「グレイヴちゃん!」
彼女はいつも通りアーシェの前に現れた。
「出てきて大丈夫なの?」
「…いいの」
通り過ぎるグレイヴをアーシェは追いかけ、いつものように隣に並んだ。
足が止まる。
「アーシェ、アタシ…軍やめるわ」
声が重い。
「…グレイヴちゃん、何言ってるの?」
「自分の身も守れない、アーシェを助けることもできない…
そんな人間が軍人なんて無理よ」
「どうして?どうしてそんなこと言うの?」
「アタシはアーシェを守りたくて軍人になった。
でもできないんだからもう意味がない。
私の存在理由がないのよ」
終わってしまおう。
何一つ役に立たない者には、ここにいる資格はない。
グレイヴが出した結論だった。
「だからアタシ、今日はそれを話すために」
「グレイヴちゃんの大切な人って、私だけなの?!」
アーシェはそれを結論だとは思いたくない。
結論になんかさせない。
「私だけじゃないでしょう?叔父さんも叔母さんも、グレイヴちゃんの大切な人でしょう?!」
「………」
「グレイヴちゃんはこれからもっと強くなるよ。
私、グレイヴちゃんと一緒に強くなりたいの!
こんな所で諦めて欲しくないの!」
別の理由を見つけて欲しい。
他のもっとたくさんの人のために動いて欲しい。
そのために、やめないで欲しい。
「でも、アタシ…」
「お昼に第三休憩室に来て。
グレイヴちゃんの存在理由、無いはずないんだから!」
アーシェが走っていく姿を、グレイヴは見つめる。
自分よりも小さいけれど、ずっと強い背中。
昼休みの第三休憩室は、普段はチェスで盛り上がっている。
しかし今日は物音も聞こえない。
グレイヴは恐る恐るドアを開けた。
「やあ、グレイヴ」
ドアの向こうに爽やかな笑顔があったため、グレイヴはドアを閉めた。
「閉めちゃダメ!ちゃんと私たちもいるよ!」
アーシェの声がしたので、もう一度ドアを開ける。
今度は、普通に。
「ごめんな、グレイヴ。ダイさんの席をドアの正面にしたのがまずかった」
「ルーファ、それどういう意味だい?」
「グレイヴちゃん、座って」
いつものメンバーがそこにいた。
任務も一緒だったし、普段の生活もよくともにした。
それもグレイヴは今日で終わりにするつもりだった。
「お母さんから聞いたよ。大変だったね、昨日」
レヴィアンスはさすがに情報が早い。
階級が尉官未満のものは一部を除いて、昨日の事件を知らされなかったのに。
「それでね、グレイヴちゃんに元気になって欲しくて…」
ニアが机の下から何かを取り出した。
タッパーに見える。
「これ、プレゼント!…うまくできなかったのは許してね」
ニアが差し出すそれを、グレイヴは躊躇いながら受け取る。
どうして、
「…!」
どうして、自分なんかのために。
「リンゴのうさぎって難しいね。大総統さんに教わったけど、なかなかうまくできなくて…」
「グレイヴが好きだって聞いたから、皆で作ったんだ」
不恰好なうさぎが、こっちを見ていた。
素直な眼で、笑っていた。
「グレイヴちゃん、皆グレイヴちゃんの事大好きなの。
だから助けたいって思うし、元気になって欲しいって思う」
アーシェの声が柔らかく響く。
昔から自分の名前を呼んでくれた響き。
「もし私たちの誰かが元気を無くしたら、グレイヴちゃんはきっと助けてくれるよね。
強いとか弱いとか、そういうの関係なく…」
大切だから助けたいと思う。
力が足りなければ、これから一緒に育てていけばいい。
「グレイヴちゃんが辛い時は、私たちに頼って欲しいの。
その代わり、私たちが辛い時には頼らせて欲しい。
グレイヴちゃんにはここにいて欲しいの。私たちの傍に…」
自分達は独りじゃない。
皆で支えあって、励ましあっていけば、
きっと前に進める。
もっと強くなれる。
不恰好なリンゴうさぎも、いつかはちゃんとした形になる。
「…下手ね、これ」
リンゴを摘んで、グレイヴは言った。
「教えてあげるわよ。できなければいつでも訊きなさい」
今守れないなら、守れるくらい強くなればいい。
まだ自分達にはたっぷり時間がある。
ここで立ち止まらなければ、大丈夫。
「これ上手ね」
「それね、私が作ったの!」
「これも良いんじゃない?」
「それ僕!結構器用なんだよ!」
「…これ、何?」
「俺。…初めて包丁持ったんだ」
「ルーファは不器用だな」
「ダイさんだって人の事言えないじゃないですか」
「ボクも初めてだったけど、どう?」
「可食部がないわ」
皆がいるから、ここにいる。
今はそれでいい。
「オリビアさんもグレイヴちゃんのこと気にしてたよ」
「父さんの生徒だってね」
「曹長さんなのに昨日の現場に行って、特攻した人もいるのよ。
その人たちも叔父さんの生徒なんだって」
「聞いたわ」
運命というものは面白い。
世間の狭さを感じることが多々ある。
それと同時に、
「…ねぇ、アーシェ」
運命は残酷でもある。
「アタシも父さんの過去を知りたいと思ったの。
伯父さんが関係していることなら、アーシェからも情報が欲しい」
逃げずに立ち向かおう。
そうすればきっと、どこかに光が見つかる。
そう信じたい。
「そろそろ、話すべきなのかもな…」
To be continued…