緑豊かな広い公園と、その中に建つ大きな建物。この敷地全てが、国立博物館のもの。エルニーニャの一般国民代表を自称する「文派」のトップ、大文卿の管理下の範囲だ。
かつて第二十九代大総統ハル・スティーナの治世において、エルニーニャ王国では王宮、軍、文派の三派が協力し合って国政を取り仕切るという決定がなされた。それまでは軍の長、大総統が、同時に国政のほとんど全てを任されていた。王宮は国の象徴として飾り物のように存在し、文派は軍政廃止を唱える一派として認識されていた時代は、その取り決めをもって終わったとされている。
それと同時に、国立博物館に関わる責任は文派の長である大文卿が持つこととなった。しかし大文卿には他にも、国内の教育制度や福祉の充実といった様々な仕事がある。これらはもちろん大総統や王とともに行なうものであるが、優先度が高く比重が大きいものであることに変わりはない。
そこで大文卿の仕事のうち、国立博物館の運営などが大文卿夫人に任されている。元は軍に所属していた彼女だが、その頭脳と仕事の処理能力は一流だ。
その名を、アーシェ・ハルトライム。旧姓、リーガル。――ニアとルーファによると、元同僚、ということだ。
「子供たちがたくさん参加してくれて嬉しいわ。今日はみんなで、博物館とその展示品について、楽しく勉強しましょうね」
人差し指をぴんと立て、たくさんの子供たちに向かって微笑むアーシェは、なるほど女神といって差し支えない。軍に所属していた頃、司令部内でそう呼ばれ、数多のファンがいたそうなのだ。
優しそうな「今日の先生」アーシェに、子供たちも安心したのか、元気よく返事をする。ニールも一緒に声をあげた。
子供向けの博物館案内イベント。館長アーシェが自ら教えるという。ニールが参加するきっかけは、彼女が夕食の差し入れと一緒にくれたチラシだった。
もともとアーシェは、料理がそう得意ではないルーファとニアのもとへ、頻繁に差し入れをしてくれる。ニールもその機会に挨拶をしたのだ。
「へえ、子供向けのイベントなんてやるんだ」
「そうなの。企画立案は私自ら。というわけで参加者を募ってるの。ニール君、良かったら博物館に遊びに来ない? 面白いもの、いっぱいあるよ」
「だって。ニール、興味ある?」
ニアに尋ねられ、その後ろで今夜の夕飯が入った容器(このまま温めればすぐに食べられるらしい)を抱えたニールは、少し考えた。
「……それ、お金かかりますか?」
「国立博物館は、子供は入館無料です! イベントだってそうよ」
「もしかして、僕らに負担がかかるんじゃないかなんて気にしてる? そんなの考えなくていいのに。それにね、たとえお金がかかったって、ニールのためなら惜しまないよ。ルーは毎日働いてるし、僕の絵だって売れるんだから、そんな心配はいらない」
それなら行きたい、と思った。面倒を見てくれているニアとルーファに負担がかからず、見たことがない珍しいものを見られる。安心して楽しんでいいのだ。ニールはこくこくと頷いた。
「行ってみたいです。博物館なんて初めてですけど、ちゃんとした服を着たほうが良いですか?」
「服なんて普段着でいいのよ。構えないで、気楽に遊びに来てね。同年代の子たちもたくさん来てくれる予定だから、友達もできるんじゃないかな。じゃあ、待ってるわね」
美しく微笑んで、アーシェはニールの頭を撫でてくれた。
博物館に展示されている様々なものも不思議だったが、こんなにたくさんの、同じくらいかもっと小さな子供たちと一緒に歩くというのも、ニールにはなかなかない経験だ。しばらくのあいだ児童養護施設にいたことがあるが、そこではあまり周囲に馴染めなかった。というよりも、馴染む前に次の行き先が決まっていたので、思い入れがあまりなかったのだ。
同年代の友達だっていたことがない。昔も今も、周りは大人だらけだ。今のところ一番歳が近い知り合いはニアの妹であるイリスだが、彼女だって九歳も年上のお姉さんなのだ。向こうもニールを子供扱いしていて、一緒に風呂に入ろうとする。というか、入っている。ニールとしては恥ずかしいのだけれど。
そんななか、「友達もできるんじゃないかな」と言われた。実際に子供がたくさん周りにいて、仲が良さそうにお喋りをしたり、触ってもいいと言われた展示物を囲んできゃあきゃあとはしゃいでいる。この輪の中に、入れるのなら。
「おい、お前邪魔」
ところが期待は、突き飛ばされて萎んでしまった。ニールよりも体の大きな、けれども年頃は同じくらいだろうと思われる少年数人が、割り込んできて言い放ったのだ。――「邪魔」。何度となく意識はしてきたけれど、実際に言われるとこんなにショックなものなのか。
「ご……ごめん」
なんとか謝ると、少年たちに睨まれた。それから、にやりと笑われた。彼らは触れる展示品にこれでもかというくらいべたべた触ってから、それを離れて見ていたニールのところにやってきた。
「お前さ、何歳?」
「え、ええと、八歳……」
「なんだよ、俺らと同じじゃん。そんなにチビでがりがりなのに」
ぎゃはは、と声をあげて笑った少年たちに、「ちょっと静かにねー」と声がかかる。アーシェだ。どうやら次の展示品を見に行くらしい。ニールが慌ててついていこうとすると、少年たちに腕をがっしり掴まれた。
「な、何?」
「俺らさ、こんな退屈なイベント、別に来たくなかったんだよ。でも父さんと母さんが勉強してこいっていうから、仕方なく参加してんの」
「だからもっと面白いことしようぜ。博物館の周り、公園になってるじゃん。そこで軍人ごっこしよう」
「でも、僕、イベントを……」
「弱っちい奴は強い奴に逆らえないって決まってんの。ほら、行くぞ」
少年たちの言う通り、力ではとてもじゃないが敵わない。遠くなるアーシェは、ほかのたくさんの子供たちに展示の説明をするのに忙しくて、こちらに気づいていない。大声を出せばわかるのかもしれないけれど、それでは周りに迷惑がかかる。そのまま引っ張られて、ニールは子供たちの団体が向かうのとは逆の方向に連れて行かれてしまった。
公園では何人かの人が寛いでいた。子供たちが数人、館内から出てきても、特に気にしてはいないようだ。展示に飽きてしまう子供は珍しくないのだから、いちいち気に留めない。
それをいいことに、少年たちはこっそり公園内の木の枝を折って、ニールを取り囲んだ。折られてぐったりとして見える木の枝がニールにも放られる。
「お前は凶悪な犯罪者だ。その武器を持って、軍人に抵抗しようとしている」
少年がこちらを指さして言う。そんなことはない、と言い返そうとしたけれど、彼らの中ではたった今そういうことになったのだから、それは無意味だとわかってしまった。
「俺たちは軍人だ。悪い奴を倒して、捕まえる。階級は……まあいいや、とにかく偉いんだ」
偉い人ほどなかなか出てこないものだと思うけど、という言葉も口にはできなかった。ただ枝を手にしてこちらに迫ってくる少年たちが怖い。もしも首に――以前本当に悪人に絞められたことのあるこの首に手をかけられるようなことがあったら、気絶してしまうかもしれない。今でも、触られるだけでも怖気が走るのだ。怖いときは、もっと怖いことばかり考えてしまう。
じりじりと近づいてくる少年たちから距離をとろうと、後退りしたら尻もちをついてしまった。げらげらと笑われ、「情けねえの」「本当に弱っちいな」とからかわれる。
ああ、そうか。弱いから、こんな目にばかり遭うのか。じゃあ、仕方のないことなのかもしれない。ニールは諦めて、目を伏せた。
「ねえ、まだ館内の見学終わってないよ?」
きれいな声が前方、少年たちの向こうから響いたのは、そのとき。アーシェが来てくれたのかと思ったけれど、もっと子供の声だ。けれども発音ははっきりしている。
顔をあげると、少年たちも振り向いていた。その先にいたのは、女の子。たぶんニールや少年たちと同じくらいの子供で、ここにいるということは、イベントに参加していたはずの子だった。
赤茶色の髪はふわふわした癖っ毛で、同じ色の大きな目がしっかりとこちらを見ている。美少女と言って間違いないその子に、情けない姿を見られているのが恥ずかしくなって、ニールはまた顔を伏せた。
だが、女の子はもう一度言う。――ああ、この声は、木琴の響きに似てるんだ。ころん、と可愛い、澄んだ音。
「今ならまだ追いつけるよ。アーシェおばさま、説明が丁寧でゆっくりだから。ね、行こう」
「なんだよ、女はあっち行ってろよ」
一番体の大きな少年が返した。でもその声は少しくぐもっていて、たぶん女の子に戸惑っているんだろうということが、ニールにはわかった。
「だって、あなたたち、イベントに来たんじゃないの?」
「あんな退屈なの、やってられるかよ。だいたいお前だって抜け出してきたんじゃないか」
「あたしはいいの。参加者じゃなくて、スタッフだもの」
「はあ? どう見たって子供じゃん。スタッフなんて嘘に決まってる」
それだけは少年たちに同意せざるを得ない。こんな女の子がスタッフだなんてありえない。博物館で働いているのは、そのための勉強をたくさんした大人のはずだ。ニールも思わず、怪訝な表情を彼女に向けてしまった。
しかし女の子は堂々と、もう一度言う。
「ちゃんとアーシェおばさま……館長に認められたスタッフよ。こう見えて博物館には何度も来てるし、展示品の説明だって常設のものならほとんど憶えちゃったんだから。それより、イベントに来たからにはちゃんと参加してもらわないと。最後に記念品、貰えないよ?」
「どうせつまんないもんだろ。いいからあっち行けよ!」
体の大きな少年が、女の子に手を伸ばす。そのまま突き飛ばされる、と思ってニールは思わず目を瞑った。次の瞬間、どすん、という音が地面を伝って響いてきた。……でも、女の子が倒れたにしては、重い音だ。
「……ええ?!」
おそるおそる目を開けたニールが見たのは、信じられない光景だった。倒れていたのは女の子ではなく少年のほう。涼しい顔で手を叩き払っている女の子は、可愛い声で言った。
「動きが単調、勢いつけ過ぎ。そういうの自滅しやすいから、もうちょっと頭使った方がいいよ」
「お前、なんだよ……なんでそんなに強いんだよ、女のくせに!」
別の少年が怯えたように叫ぶと、少女はにっこり笑った。
「女のくせに、は偏見だよ。軍人さんだって女の人はたくさんいるし、活躍してる。やっぱりあなたたち、ちゃんと勉強していったほうが良いんじゃないかな」
なんだか誰かに似ているような。ニールの脳裏をかすめたのは、茶目っ気があるけれどとても強い女性軍人――イリスの姿だった。
少年たちは「おぼえてろよ!」なんて物語に登場する脇役みたいな台詞を吐いて、どこかへ行ってしまった。本当にあんなふうに言う人いるんだなあ、と思っていたニールに、そっと小さな手が差し伸べられる。色白で、指は細くて、少し長い。
「大丈夫だった?」
木琴みたいな声が心配そうに、ころん、と鳴った。
「あ、はい……。僕は、あの、何でもないです。何もされてないので」
「うん、怪我はしてないみたいだね。立てる?」
「立てます。立てるので、手は、大丈夫です」
慌てて立ち上がって、女の子の身長がわかった。ニールより高い。でもきっと、年齢と照らし合わせれば、彼女のほうが普通なのだろう。そして顔が近づいて、彼女が美少女だということを改めて認識してしまった。
「だ、大丈夫、なので。……まだ、イベントに戻れるんですよね」
熱くなった顔を俯いて隠しながら尋ねると、女の子は頷いたようだった。
「戻れるよ。行く?」
「行きます。僕、すごく楽しみにしてたので、本当は全部ちゃんと参加したかったんですけど……」
「それじゃ、アーシェおばさまたちに追いつくまで、あたしが案内してあげる。イベントのプログラムは頭に入ってるし、説明だって真似してできるよ」
さあ、と女の子がニールの手を取った。この小さくて柔らかい手が乱暴な少年を倒しただなんて、やはり信じられない。おまけに、初めて同じくらいの女の子と手をつないでしまった。ニールの頭の中は、激しく混乱していた。
ごちゃごちゃになった頭をすっきりさせてくれたのもまた、女の子のころんと響く声だった。途中から見ることができなかった展示物の説明を、可愛らしい声で簡潔に、けれどもわかりやすくしてくれる。ニールはすぐに夢中になって、彼女と一緒に博物館の中を歩き回った。
ちょうどアーシェが子供たちに、南の大国サーリシェリアとの友好の証である「赤い杯」を紹介していたところで、追いつくことができた。女の子がにっこりして、「良かった」と呟いた。
「あの、ありがとうございました」
ニールが小声で礼を言うと、女の子はゆっくり首を横に振った。
「当然のことをしただけよ。だってあたし、イベントのスタッフだもの」
「さっきもそう言ってましたけど、子供なのにスタッフなんですか?」
「あたしが手伝いたいっておばさまにお願いしたの。ここに何度も通ってるのは本当のことだし、おばさまもそれは知ってるから。でも役に立てて良かった」
役に立った、どころではない。ニールたちを見つけてくれ、助けてくれて、みんなのところに連れてきてくれた。それはまるで、ニールが巻き込まれてしまった事件に関わった人たちと同じだった。そしてニールは、また何もできなかったのだ。
次の展示に移動しながら、女の子に尋ねた。
「あの、どうしてあんなに強いんですか? 頭も良いし」
女の子は癖っ毛をふわふわと揺らしながら、強いかなあ、と首を傾げた。
「あたしのは真似だよ。小さい頃からお世話になってるお姉さんが、もしものときの護身術って教えてくれたの。お姉さんはお兄さんに、変なこと教えるんじゃないって怒られてたけどね」
「へ、へえ……」
なんだか似たようなことを聞いたことがあるような、とニールは記憶を探る。たしかあれは、風呂に入っていたときではなかったか。
――ニールもお兄ちゃんの家族だしねえ。もしものときの護身術、教えてあげようか?
そう言ったイリスは、偶然風呂場の外にいたニアに叱られていた。
――ちょっと、ニールにまで変なこと教えるんじゃないよ。
もう誰かに教えてしまっていたような、そんな言い方だった。
「そういえば、名前を聞いてませんでしたよね。僕、ニール・シュタイナーっていいます」
「え、あなたが噂のニール君? イリスちゃんの新しい家族の?」
女の子は目を丸くして、たしかにその名前を言った。それから、自分も名乗った。
「あたしはエイマル。エイマル・ダスクタイトっていうの」
聞いたことのある名前だった。ニアからも、ルーファからも、イリスからも、……他にも、ちらほら。
「今日はみんな、楽しんでくれたかな? これからも博物館に来て、この国の文化や歴史、科学に触れてくれたら嬉しいです」
アーシェがそう締めて、イベントは終わった。参加した子供たちに配られた記念品は筆記用具のセットで、博物館のマークが入っていた。
エイマルも、ほかの博物館のスタッフと一緒に、記念品を配っていた。小さな子には「また来てね」と声をかけながら。
強くて、頭が良くて、仕事ができて、美少女で。エイマルはなんて自分と違うのだろうと、ニールは貰った筆記用具を握りしめながら思う。聞けば、彼女はニールとたった一歳しか違わないという。向こうのほうが年上だが、それにしても差がありすぎる。自分は弱くて、人の世話になることしかできない。
ぼんやりしていると、不意に肩を叩かれた。振り向くと、一仕事終えたアーシェがいた。
「ニール君、今日はありがとう。それと、ごめんね。途中でいなくなったこと、気付かなくて。本当は大人がちゃんと見ているべきだったのに……」
「いいえ、アーシェさんは忙しかったので、仕方ないです。それにエイマルさんが助けてくれたので、大丈夫でした」
「うん、エイマルちゃんから聞いたよ。一緒に館内をまわったことも。これからも仲良くしてくれると、私はとっても嬉しいな」
「仲良く……」
そんなことをして、いいのだろうか。またニールが弱いばかりに、エイマルに迷惑をかけてしまわないだろうか。あんなに強い女の子と一緒にいたら、自分の弱さが際立つのではないかと、そんな心配をしてしまうのも嫌だ。
仲良くなるなら、もっと強くならなければいけないのでは。そんなことを考えていたら、ひょいと顔を覗き込まれた。
「ねえニール君、これからニール君のお家に一緒に行ってもいい?」
「え、わ、わあっ?!」
驚いてのけぞると、現れたエイマルがくすくすと笑って「ごめんね」と言った。それから大きなバスケットを胸のあたりに掲げる。
「お母さんに頼まれてたの。博物館での手伝いが終わったら、イリスちゃんのお兄さんに晩御飯のおかずを届けてあげてって。だから、一緒に行こうと思ったんだけど……」
「え、おかず?」
「グレイヴちゃん、今日は忙しいのね。そんなおつかいをエイマルちゃんに頼むなんて」
アーシェの言葉で気づいた。グレイヴ・ダスクタイトさんはアーシェと同じように、家におかずを持ってきてくれる一人だ。つまりエイマルは、よく家に来る人の娘なのだ。
「い、いいですけど……」
「よかった、ニール君ともっとお話したかったんだ。あ、そうだ、あたしに敬語はいらないよ」
こちらが遠慮していても、エイマルのほうは仲良くしようとしてくれているらしい。それを無碍にすることはできないし、したくない。
「そ、それじゃあ、行きましょう……じゃなくて、行こうか」
思い切って敬語をやめた。少しでも、自分が強く見えないかと思って。
「うん! おばさま、今日はありがとうございました」
「こっちこそ、ありがとうね」
「ありがとうございました、楽しかったです」
「ニール君もありがとう。ニア君とルーファ君によろしくね」
強くなる方法を、ニアやルーファにも訊いてみよう。イリスも張り切って教えてくれるかもしれない。
隣を歩く女の子には、当分敵わないかもしれないけれど。どう頑張っても、ニールは弱っちく見えるかもしれないけれど。
でもだからって、強くなるのを諦めるわけにはいかなくなってしまった。
「あの、エイマルさん」
「さん、はいらない」
「……エイマル、ちゃん。どうしてイリスさんから護身術を教わったの?」
「イリスちゃんくらい強くなれば、自分の身は自分で守れるでしょう。そうしたら、お父さんが悩まなくても良くなるかなって」
初めてできた同年代の友達と、せめて同じくらいは強くなりたい。そうしたら今度こそ、大切なものを守れるだろうか。後悔しないようになれるだろうか。
「イリスさんくらいって、どれくらい?」
「うーん、たしかこのあいだ、佐官の人たちと勝負して勝っちゃって、お兄さんに叱られたって」
「ああ、そういえば叱られてたかも……」
いつかって、いつになったら手に入るものなのだろう。今日みたいに、追いかければ追いつけるものなのだろうか。
「バスケット、僕が持つよ。うちの夕飯になるんだし」
「そう? じゃあかわりばんこに持とうよ。その角まであたしが持つから、ニール君は次の角まで」
まずは、今日、一歩、いや、半歩だけでも。