二十歳にもなって、とは思うが、興味があるものは仕方がない。
しかも女性がいれば華があっていいが、男性のみでとなると。
…いや、このメンバーならそうでもないだろう。
「全員いるかー?」
カスケードの声に、口々に答えが返ってくる。
「いるぜ」
「僕もいます」
「…何でオレまで…」
「大丈夫だよ、カスケードさん」
カスケード、ディア、アクト、アルベルト、ブラック―五人が向かう先は、室内遊園地「ウィーアミュー」。
以前後輩に薦められて、一度は行ってみたいと思っていた。
とは言っても、そう思っていたのはカスケードのみだが。
「よし、全員いるなら行くぞ!」
最年長だが、一番子供に見えるのは何故だろう。
「アイツ馬鹿か…?」
「カスケードさんもディアには言われたくないと思うけど?」
「…泣かす」
「無理だろ」
いつものやり取りをしながらカスケードに続くディアとアクト。
「遊園地って僕初めてだなぁ…」
「キャーキャー五月蝿いのは嫌だ」
全く対照的な考えを持っているアルベルトとブラック。
五人の休日が始まった。
「室内遊園地『ウィーアミュー』へようこそ!ご来園は本日が初めてですか?」
受付の女性が明るく言うと、カスケードが答える。
「初めてだけど…俺と一緒にどう?」
「…え?」
受付嬢は目を丸くして、受け答えに困る。
そこへ救世主とも言うべきツッコミが入る。
「カスケードさん、ニアさん夢に出てくるよ」
「……」
片思いの相手の名前を出されては勝てない。
カスケードは大人しく説明を聞いて、ロッカールームへ進んだ。
しかし、そのロッカールームがとんでもなく広い。
「…どこだよ、ロッカー…」
なかなか合う番号が見つからず、とにかく探す。
「グレンちゃんたちも言ってたな、ロッカーが異常だって」
「どこですか〜…」
「落ち着けよアルベルト…」
「馬鹿じゃねーの?」
困り果てたアルベルトをアクトは慰め、ブラックは貶す。
やっと見つけた番号は、身長百八十センチ台のカスケードとディアで丁度良い位置にあった。
「…アクト、届くか?」
「無理。入れといて」
やっとのことで靴を履き替えてロッカールームを出、メインを目の当たりにする。
このときの感動について語っていたリアの気持ちが、今ならわかる。
「…行くか」
「何に?」
そして多くの遊具に戸惑うのであった。
遊具の八割は絶叫系。無論、スピード狂のこの人たちは大いに楽しめる訳で。
「速ぇー!!」
「そうか?別に丁度いいけど」
「十分速いだろ!アクトのスピード感覚がおかしいんだよ!」
猛スピードで駆け抜けるジェットコースターの上で、平然と話す三人。
アクトに至ってはこれが普通とでも言うような涼しげな表情。
一方アルベルトとブラックはというと。
「……」
「…この馬鹿気絶してんのか?」
大変なことになっていた。
漸く一周する頃には、アルベルトの魂は遠いところに飛んでいた。
「アル!生きてるか?!」
カスケードが揺さぶって、やっと魂が戻ってくる。
「…大佐…僕…」
「良かった!生きてた!」
「…川の向こうで祖父が…」
「危ない!それ危ない!」
やり取りを聞いていたブラックが一言、
「…馬鹿じゃねーの?」
と呟いた。
一方スピード狂はというと、
「次あれにする」
「あれか?…カスケード、先行ってるぞー」
次なる目的に向かって歩き出していた。
三途の川を見てしまったアルベルトは休憩し、ブラックはその隣でスポーツドリンクを飲み、他三人は脅威のスピードを体感していた。
「次あれ」
「…アクト…休憩しないか?」
「俺もキツい。お前なんで平気なんだよ…」
そろそろカスケードとディアも限界のようで、ぐったりしている。
その様子を見ながら、ブラックは呟く。
「あいつら能天気だな」
「楽しんでるんだよ。…ブラックはいいの?」
「くだらねーんだよ」
空になった缶を専用の籠に向かって投げると、見事に入った。
昼食を終え、午後の部が始まる。
「一発目はやっぱり…」
ディアが視線を向けた先は、本来ならば夏にぴったりのあのアトラクション。
「…お化け屋敷…?」
不安そうにそう言ったのはアルベルトだ。
「くだらねー」
「黒すけ、そんなこと言わずに楽しめよ」
「黒すけって言うな!」
慣れたやり取りでお化け屋敷に近付く。
入り口に近付くと張り紙があった。
「…何でこの張り紙がついたかわかる人〜…」
カスケードが呆れつつ見るその張り紙には、こうあった。
『お化けを壊さないで下さい』
「…見なかったことにしねぇか?」
「今回はディアに同意」
「…そうだな、入るか」
順々に入場していく五人を待ち受けていたのは、数々の人形。
急に出てくるために心臓の拍動が激しくなる。
「あああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁあぁあぁ!!!!!」
「アル!大丈夫か?!」
カスケードが叫び声に振り向いたときにはすでに遅かった。
大きな荷物が増え、そのまま先へ進む。
「…ここ寒い」
アクトがディアにしがみつく。
怖いわけではなく、寒いからくっついているのだ。
「仕方ねぇだろ、こういうのは涼しいもんなんだよ」
「寒いからやだ。…離れるなよ」
「わかったよ、お姫サマ」
後ろから見るとカップルにしか見えない。いや、実際にこの二人はカップルだ。
普通にくっついているだけなら微笑ましいのに、とカスケードは思う。
自分だって本当はニアと来たかったのだ。しかし、この世にいないのだからどうしようもない。
こうして気絶した部下を担いで進むしかないのだ。
「…ブラック、アル担いでみるか?」
「嫌だね」
「…だよな」
この状況はなかなか虚しいものがある。
最後の大イベントが観覧車だ。
ペアはじゃんけんで決めて、二人と三人で乗り込む。
「アルベルト、大丈夫か?」
アクトが心配そうに、しかしあっさりとした口調で尋ねる。
「何とか…。僕やっぱりこういうのは向いてないみたいです…」
「じゃあ今度は別の場所にするか。それで皆で来れば良い」
滅多に見せない笑顔を、アルベルトは見る。
「…アクト君、やっぱり綺麗だなぁ」
「…それって女顔ってこと?」
「そ、そうじゃなく、本当に綺麗だなぁって思って…」
慌てて否定するアルベルトを、アクトは面白そうに見ている。
「そういえばアルベルト、リアとはどうなってる?」
「え?!ま、マクラミーさん?!」
名前を聞いただけで挙動不審に陥る。
「どうって…どうもないですけど…僕、話し掛けられないし…」
顔を真っ赤にして言うアルベルトが初々しくて、アクトは少しうらやましく思う。
自分にはそんな時期はなかった。もっとあっさりしていた。
それでも、好きだという気持ちは多分同じ。
「あ、アクト君こそディア君とは…」
「相変わらず。あいつ馬鹿だから、おれがサポートしないと」
そうは言ったものの、本当は逆だと思う。
アクトがディアにサポートされている部分が大きい。
自分はきっと、ディアを失えば立っていられなくなるから。
「…見えてきたな、終点」
観覧車はゆっくりと回る。
時は少し遡り、もう一方のゴンドラで。
「男三人って虚しいよな」
カスケードが言うと、ディアが溜息をつく。
「それを言うんじゃねぇよ…せめてアクトがいれば良かったのにな」
「どっちにしても男五人で来てるんだから変わんねーよ」
ブラックが顔を逸らしつつ言う。
少し間を置いて、カスケードがぽつりと言う。
「…不良は、アクトのどのへんが好きなんだ?」
「何だよいきなり!」
ディアが怒鳴って姿勢を乗り出すと、ゴンドラが大きく揺れる。
「大人しくしろよ。…で、どこが好きなんだ?」
「んなの決まってんだろ。美人で飯が美味くてきわどい事もさらりと言えるところだ」
「最後のはともかくまるで新婚だな」
カスケードとディアの会話に入らず、ただ外の景色を見るブラック。
いや、外の景色も見ていない。ただそこにいるだけだ。
しかし、その状況を打破するのがカスケードだ。
「黒すけはグレンのどのへんが好きなんだ?」
「はぁ?!」
急に話を振られて、つい声を出してしまう。
自分でも考えたことのない質問の答えを言える訳がない。
「どのへんって…」
「まぁ、グレンちゃんも美人だしな。カイがいるけど」
「そうだな、あの銀髪がいいよな。薬屋がいるけど」
「…テメェら…」
カイの名前を聞いて苛つくブラックを、カスケードとディアは完全に楽しんでいた。
その後も、とにかくブラックがキレるまでカイの名前を出し続ける。
そしてとうとう、ゴンドラが大きく揺れた。
たまにはこんな休日もいいのでは?
Fin