夜の闇が、空を覆う刻。
家の中で、ぼくとおにいちゃんが椅子に座っていました。
「おにいちゃん、今日は早かったね」
ぼくがおにいちゃんの顔を見て言いました。
「ああ、今日はなぁ〜♪」
どこか嬉しそうなおにいちゃんの表情に、ぼくは首を傾げます。
「いっぱい勝ったの?」
「いや、そうじゃないけど、な」
にこっと嬉しそうな、邪気のない笑みにぼくは、
「いったいどうしたの?」
何も言わないおにいちゃんが腹ただしく感じて、ぼくは詰め寄りました。
するとおにいちゃんはこれまた嬉しそうな声で言いました。
「明日になれば、フォークにもわかるよ」
というので、ぼくはその言葉を信じて、今はしぶしぶ諦めました。
それからいつものように、歯をみがいてパジャマに着替えて、おにいちゃんの後をついて兄弟一緒の寝室に向かいました。
その道すがら、おにいちゃんは廊下や部屋の電気を消していきます。
すると、辺りは暗い静寂につつまれました。
その空気が怖くて、ぼくは無意識のうちにおにいちゃんのパジャマをつかんでいました。
そのまま寝室にたどり着いて、そこにはベッドが二つあって、ぼくは向かって左側の大きなベッドに体を預けます。
「お休みなさい」
「おやすみぃ」
おにいちゃんの間延びした声に、ぼくは安心して、心地よく暖かい揺り篭の中に意識をおとします。
ゆらゆらと、朦朧とした意識。
まるで夢のようなまどろみの中。
「ハッピーバースデー、フォーク」
頬に、暖かい息がかかるのを感じ、ぼくは重い瞼をゆっくりと開いていく。
月明かりに照らされて、今にも流れそうな涙を目一杯溜め込んだ、おにいちゃんの顔が目の前にあった。
「生きていてくれて、ありがとう」
その言葉が、その表情の一つ一つがぼくの心にじわじわと暖かく浸透していく。
「ぼくも、おにいちゃんと一緒だったから、だから……」
今を、むかえられるんだよ。
その言葉は声にならなかった。
代わりに、届いた言葉があった。
「17歳、おめでとう――」
月明かりが、幻のような美しさをぼくたちに与えてくれる。
光が、ベッドに横になって眠るぼくと、ぼくの頭をなでたまま、そのままの姿勢で眠りについてしまったおにいちゃんとを優しく包んでくれる。
そんな幻想的な夜が過ぎて。
朝が訪れる。
朝の光の中、ぼくは思いがけない多くのプレゼントの山と、出会う。
【終】