今週はとにかく忙しい。

料理教えて欲しいって奴が増えて、一人一人指導しなきゃいけない。

…待てよ?別に一人一人じゃなくても良いじゃん。

一気にやっちゃえば全部解決するんじゃないか。

「…決めた」

「何をだよ」

「料理教室やる」

「…マジで?」

一回きりでも良い。

とにかくまとめて教えられれば、それで良いんだ。

 

「今日はハンバーグ作るから」

「はーい」

「わかりました」

「…今更かよ」

今日の生徒は三人。

ハルとグレンは初参加で、ブラックは常連。

それぞれ事情があって参加している。

ハルは三歳の息子がいて、その子のために何か作ってあげたいということらしい。

かなり前に幾つかメニュー教えてやったことがあるから、厳密には初参加じゃないな。

グレンは五歳の息子がいる。家事は普段人任せらしいけど、

「やっぱり俺も一応母親ってことになってるらしいので」

ということで参加。(頼みにくるときすごく可愛かったんだよな。)

ブラックは六歳の娘を養う為。奥さん病気がちだから、父親がしっかりしなきゃってさ。

ちゃんと親やってるんだから偉いよな。

子供のことを考え、かつ伴侶のこと(特にハルのとこ)も考えた結果が今日のメニュー。

ひき肉ダメとかタマネギ食べれないとかそういうのが無いことを確認した上だ。

「じゃあタマネギ切っておこうか」

 

タマネギのみじん切りは結構辛いものがある。

コップ一杯の水を置いて素早く済ませるのが良いんだけど、

「…これからはタマネギ使えば良いのか」

「何にですか」

「グレン泣かすのに」

「やめてください」

やっぱり慣れない奴はこうなる。

ハルあたりは予想してたけど(でもあんまり泣いてないな)

「早く慣れることだ。オレも習い始めはどれだけアクトにからかわれたか…」

ブラックが泣いてるの珍しいし、可愛かったから。

ハルは予想ついてても可愛いし。

…こんな風に思ってしまうから姐御とか言われるんだろうか。

「全員終わったな。じゃここから手本見せるからちょっと待ってろよ」

さて、やっとおれも作り始められる。

 

「…じゃ、今おれがやったように」

「早くて見えませんでした」

…それは大袈裟だと思う。

確かにすぐ真似しろっていうのは厳しいかもしれないけど。

「…ひき肉につなぎ入れて、練って」

おれ教えるのやっぱり向いてないんだろうか。

ブラック、お前教師だったよな。ちょっとコツ教えてくれ。

「次にナツメグと塩コショウ。さっき炒めたタマネギもな。

あとはよく練ればいい。簡単だろ?」

これくらいはできるだろ。後は焼くだけだし、少しのんびりできるかな…

…って、おい。

「ブラック…それ何したんだよ」

「ナツメグひっくり返した」

「弁償しろよ」

何やってるんだか。

かなりスパイス効いた味になりそうだ。

「できたら形を整える。真ん中は少しへこませておくこと。

そうすると火が通り易いんだ」

空気抜きもしないと。

そう思っておれが自分で作ってる分に手を伸ばそうとした時、

べしゃ

「ふぇぇ…落としちゃったよぅ…」

「ハル、落ち着いてやろうな。火通せばきっと大丈夫だから。」

おれより背は高くなったけど、中身は変わらないな。

ハルは許そう。

「焼けば完成。よく火を通しておくこと」

付け合せとソースは始める前に作っておいたから、後でレシピ渡せばいいか。

皿に盛り付けたところで、おれは漸く息をついた。

一応は順調に進んでるし、きっと大丈夫だよな。

…大丈夫、だよな?

 

「うん、ハルはよくできてる」

「良かったー。ありがとうございます、アクトさん!」

見た目も味も完璧だな。落としたのは気にしないとして、多分一番出来が良い。

これならたとえ和風ソースかけてもアーレイドは文句言えないだろう。

「ブラックは…わかってるとおもうけど」

「家ではあんなヘマしねーよ」

「うん、うちのは弁償しろよ」

案の定ナツメグっぽい。匂いからしてナツメグ。

それ以外は特に問題ないんだけどな…。

「あー…で、グレンのは…さ」

うわ、一番コメントしにくい。

果たしてこれはハンバーグっていえるんだろうか。

焼く前までは確かにハンバーグだったんだけど…。

「これハンバーグじゃなくてあんのうんだね」

「こら、ユロウ!」

覗きにきたユロウに先にコメントされてしまった。

しかも見た目を簡単に説明してしまった。

そう、あんのうん。他に言いようが無いのだから、こう言うしかない。

「…まぁ、そういうこと」

「わかりました。自分でも変だと思ってます」

あ、落ち込んでる。

あんなにはっきり言われちゃ無理も無い、か。

グレンだって親として一生懸命なんだよな。

「とりあえず食べてみるからよこせ」

「え、でも…」

「いいから。先生の言うことは聞け」

これで味も見た目通りだったら最初から教えなおす。

何回でも教えてやる。

ちゃんと見てなかったおれにも責任はあるんだから。

「…あ」

 

数日後、おれはユロウを連れてカイの所に行った。

ユロウの薬を買いに行ったついでに、少し話し込む。

「あれ以来夜中に台所こもってるんですよ、グレンさん」

カイは心配そうな、だけど少し嬉しそうな表情で言う。

「別にあれでいいのにな…」

「俺もそう思います。見た目はあんのうんだけど、味は普通ですよね」

あの後何度かやったけど、見た目はどうしてもあのままだった。

何がいけないのかはわからない。

ただ、味は本当に普通のハンバーグだった。

「やっぱりルーファにまであんのうんって言われたのがショックだったんでしょうね」

「まぁ、子供に言われたらな」

「ルーファもあのままで良いって言ってるのにきかないんですよ」

「グレンらしいんじゃない?そういうとこ可愛いよな」

「そうなんですよ。もう本当に可愛くて!」

カイはやっぱりカイだな。

 

料理なんて愛情さえあればなんとでもなるんだよ。

作り手の込める愛情と、食べてくれる愛情。

それで十分。

そう思わない?

 

「…だからってグリンピースはねぇだろ」

「これも愛情だ。はい、ダイとユロウの分」

「お父さんグリンピース食べなよ」

「好き嫌いしてるといつまでたっても頭悪いままだよ、父さん」

「うるせぇんだよダイ!」

「そっか、ディアはおれの愛情いらないんだ。へぇ…」

「そういうわけじゃ…ってオイ!何グリンピース追加してんだよ!」

 

好き嫌いはしないようにね。

 

 

Fin