その日、偶然カスケードに用事があった。
ニアは散歩ついでについていき、父が用事を済ませている間は公園で遊んでいることにした。
ニア・インフェリアが四歳の時の、真夏の話。
ふと、砂遊びをしようと思った。
移動しようと走ったら、石につまずいて見事に転んだ。
ずざーっと、なかなかに豪快な音が響く。
「…ふえぇ…」
すりむいたひざが痛くて、地面に転がったまま泣いた。
父は助けに来てくれない。母は友達のところに出掛けているとかで、ニアが家を出る時にはすでにいなかった。
周りで遊んでいる子供はニアに気づかず、楽しそうに駆け回っている。
いや、一人だけ。
気づいて、駆け寄ってくる影があった。
「大丈夫?」
伸ばされる手。
顔を上げると、自分と同じか年上と思われる少年が見えた。
彼の手をとって起き上がると、ひざがまたじんじんと痛み出した。
「ううぅ〜…」
「泣くなよ…向こう行って傷口洗おう。歩ける?」
「あ…ひっく…歩ける」
「じゃあ大丈夫だな」
少年はニアの手をとって、ゆっくりと歩く。
歩幅と速度を合わせてくれるので、ニアは無理なく歩けた。
水のみ場で傷についた砂を洗い流すと、沁みて痛い。
そのためにニアはまた泣くのだが、少年は根気よく慰めの言葉をかけてくれた。
水をふき取って絆創膏を貼る、その手際の良さ。
ニアは次第に痛みを忘れて、少年を呆然と見ていた。
「これでよし」
「…ん、ありがと…」
「じゃ、もう転ぶなよ」
少年はニアの頭を優しく撫でて、
公園の外へ走っていってしまった。
「ニア、悪いな。ちょっと手間取って遅くなった」
「おとーさん!」
迎えに来た父に、ニアはいつものように飛びついた。
「よし、帰るか」
「うん!」
背の高い父に肩車してもらい、ニアの機嫌はさらに良くなる。
どこまでも遠く景色が見える。
あの少年が見えないかときょろきょろしていると、父がニアのひざに気づいた。
「…怪我したのか?」
「ころんだのー。でもね、助けてもらったの」
「誰に?」
「知らない子。あのね、僕と同じくらいか大きい子で、えっと…薄い茶色の髪だったの」
「そっか…ごめんな、すぐ来てやれなくて。
でも、いいやつに会えてよかったな」
「うん!」
夕日の中、帰路につく。
今日の思い出は、眠りの中にとけていった。
少年は夕食の時間に、両親に今日のことを話していた。
「俺より小さい子だと思う。弟いたらこんな子かなーって思った」
「そっか、絆創膏持ってってよかったな。きっとその子も感謝してるよ」
「そうだな、ルーファは偉い」
両親に褒められ、四歳のルーファは照れて小さく笑った。
これがニアとルーファの初めての出会いだったことは、互いに知らない。
だけど時折、
「大丈夫か?ニア」
「痛い〜…」
「ほら、俺の手につかまっていいから」
似たようなことがきっかけで、ほんの僅かによみがえる。
「…あれ?昔こんなことあったような気がする」
「ニアはいつものことだろ。
あ、でも俺も小さい頃似たような事あった気がするな…」
このことは知らないままだけれど、それでも二人は変わらない。
いつまでも、助け合う友達。
Fin