「ニア、週末空いてるか?」

「うん?」

いつもと同じように過ごす休憩時間。

短い時間を、昼食をとりながら楽しんでいた。

デザートに手をのばしたところで、ルーファが不意に尋ねる。

「一緒に出かけようかと思ったんだけど」

「いいけど…」

こういうことは珍しくない。ちょっと買い物に出かけたりするのは、よくあることだ。

でも、こうして改まるのは何だか変な感じがする。

「まだ今週始まったばかりだよ。今から週末の話?」

「早めに約束しておきたくて」

何か企んでいるのだろうか。今日のルーファは少しおかしい。

まるでどこかの誰かさんだ。

「大尉みたいなこと言うんだね」

「ダイさんと一緒にしないでくれ」

ルーファがついその名を口にする。

気づいた時にはもう遅かった。

「俺が何だって?」

神出鬼没のその人に気づかれたら、もう計画は台無しだ。

ルーファは呆れと後悔で、深いため息をついた。

 

開園十五年、多くの人に愛されているその場所は、かつて親たちも来たことがあるという。

そのときの話を聞いて、もっともっと楽しみが膨らむ。

「室内にこれだけのアトラクションを作るなんて、すごいよね!」

「そうね。今日はいっぱい遊ぼうね!」

はしゃぐレヴィアンスと、目をキラキラさせているアーシェ。

「はしゃぎすぎてケガしないようにね」

少し心配そうなグレイヴ。

「な?皆で来たほうが楽しいだろ」

爽やかな微笑を向けるダイ。

「そうですね…」

これらの全てに、ルーファは胃を痛めていた。

確かにみんなで遊ぶのは楽しい。が、今回の目的はニアと二人で来ることだった。

ダイに見つかってしまったら、言い逃れはできない。結局計画は倒れてしまった。

でも、

「ね、ルー。僕たちも行こうよ」

ニアがにっこり笑っているから、これでもいいか。

そもそもニアを楽しませようと思って考えたんだから。

「そうだな」

伸ばされた手を取って、駆けていく。

今日は屋内遊園地ウィーアミューで、思いっきり遊び倒そう。

 

午前中はのんびりして、午後は絶叫系を堪能する。

これはアーシェが提案した、この遊園地の遊び方だ。

絶叫系アトラクションがほとんどを占めるウィーアミューをどう楽しむかは、遊びに来た人々にかかっている。

「これはお母さんに聞いたの。昔遊びに来たときに、こういうまわり方をしたんだって」

初めは一緒に行く予定ではなかったアーシェだが、こうした面では心強い。

やっぱり皆で来て良かったかもな、とルーファは思う。

ただ、絶叫系アトラクションが苦手な人がいたらどうするのか。それは考えなければいけない。

「ニア、ああいうの平気か?」

試しにジェットコースターを指差してみる。

ニアは首を捻って、うなった。

「ちょっと怖そうだなぁ…」

「乗ってみたら案外平気かもしれないよ」

横からレヴィアンスにそう言われ、ニアは頷くしかない。

本当に大丈夫なんだろうか。

「グレイヴちゃん、メリーゴーランド乗ろう!」

「え、アタシ?」

アーシェがグレイヴをひっぱっていくのが見えた。

ダイが楽しそうにそれを見ている。危険信号だ。

「…胃が痛い」

「ルー、大丈夫?具合悪いの?」

「楽しみで眠れなかったとか?ルーファも意外とお子様だねー」

「レヴィには言われたくない」

ただ楽しいだけでは終わらないはずだ。なんといったってこのメンバーなのだから。

「ニア、ボクたちも行こうよ!」

レヴィアンスがニアの手を引っ張っていく。

あぁ、当初そこは自分の場所になるはずだったのに。

「…って、何考えてんだろうなぁ俺…」

多少混乱しているようだ。自分はゆっくり後をついていくことにしよう。

 

「ねぇねぇルー、コーヒーカップってどんなの?」

ニアが興味を示したのは、大きなカップがたくさん回っているアトラクション。

「回るんだよ」

「それは見れば分かるよ…」

少し膨れるニアを面白がる。

そうそう、こういう表情が見たかった。

「乗ってみるか?」

「うん!」

「あ、ずるいよ!ボクも!」

ニアと一緒に行こうとすると、レヴィアンスが間に割り込む。

ずっとニアにくっついていたのに、いきなり存在を忘れられたのが悔しいらしい。

「うん、レヴィも一緒に行こう」

「そうこなくっちゃね。アーシェも行くでしょ?」

「行って良いなら、ご一緒させてもらおうかな」

いつの間にかメリーゴーランドから戻ってきたアーシェも加わり、四人で一つのカップに乗り込む。

中央にテーブルのようなものがあり、ニアが不思議そうに触った。

「これ何?」

「これを回して、カップを回転させるのよ」

アーシェが説明する。

ニアは恐る恐る回してみて、カップが動くのを確かめた。

「あ、ホントだ」

「動き始めたらもっと楽しいのよ」

にっこり笑うアーシェ。

とても平和な雰囲気からは、この後の惨事は少しも想像できない。

コーヒーカップを外から見ていたグレイヴだけが、不安そうな表情をしていた。

「大丈夫かしらね…」

「何が?」

ダイが隣から尋ねると同時に、アトラクションが動き出す合図が鳴った。

その直後、

「は…速いよっ!速いよぉう!」

レヴィアンスの絶叫が聞こえた。

この感覚が苦手なようで、ルーファにしがみついている。

ニアはそんなことにはお構い無しだ。どんどん回す。

「ニア、レヴィが怖がってるぞ」

ルーファは何事も無いかのように落ち着いている。

いや、ニアの行動に少し青ざめていた。

「怖がってるの?…じゃあアーシェちゃんに代わる?」

「お願い…お願いだから回さないで…速いよぉ…」

レヴィアンスの懇願に、ニアはハンドルから手を離す。

そしてアーシェに譲った。

「それじゃ、私がやるね」

アーシェに交代してからはあまり回らなかった。

しかし、

「一瞬!一瞬がすごく速い!」

「あ、そう?ごめんね、レヴィ君」

アーシェも意外とタチが悪かった。

柵の外でグレイヴが「やっぱり」と呟く。

結局レヴィアンスはフラフラになって、ルーファは呆れていた。

楽しかったねー、と言い合えるのは、ニアとアーシェ。

「ルーファぁぁ…ボクもうあの二人と乗るのヤダ…」

ニアについてきて、さらにアーシェを誘ったのはレヴィアンスなのに。

知らないって怖いな、とルーファは心の中で呟いた。

「ねぇ、次何にしようか?」

青い顔の赤毛とは対照的に、顔色の良いダークブルー。

本来なら、この笑顔を喜ぶべきなのに。

ルーファの笑いはほんの少し乾いていた。

 

遊ぶ子供たちを眺めるグレイヴに、ダイが紙コップを渡す。

冷たいコーヒーを買ってきてくれたらしい。

「頼んでないわよ」

「頼んでなくても。今日は俺のおごり」

素直に礼が言えないグレイヴの性格を、ダイは分かっている。

だから笑顔のまま、彼女の隣に座った。

「ルーファはニアと二人で来たかったらしいな」

「仲いいのね、アイツら」

「そうだな」

ニアとアーシェ、レヴィアンスが声を上げて笑っている後から、ルーファがついていく。

あの時偶然会話を聞かなければ、あの面白い光景は見られなかった。

「グレイヴ、俺も君と二人で来たいんだけど」

「アタシは嫌よ。こういうのって苦手だから」

「別の場所ならいいんだ?」

「何言ってんのよ、そうじゃなくて!」

「じゃあ国立博物館とかどうだ?」

「話を聞きなさいよ!」

グレイヴとこんな会話をすることもできなかったかもしれない。

今日、ここに来られてよかった。

無理矢理ではあったけれど。

「ルーファにばっかり良い思いさせるかよ」

「え、何か言った?」

「いや、何も」

 

昼食はアーシェとグレイヴが作ってきてくれたお弁当。

女の子の手作りに男子は沸き立つ。

「やっぱりアーシェちゃんとグレイヴちゃんのお弁当は美味しいよね」

「そうだな」

やっぱり女子も一緒に来るのは正解だったのか。

これはダイに感謝すべきなのだろうか。

そんなことを考えていたら、何だか笑顔が刺さってきたような気がした。

「…ダイさん」

「何だ?」

もしかして感謝しろって言ってますか。

そう思っても、口にはできない。

「ルーファ、何かおかしくない?」

レヴィアンスが首を傾げるのを、とりあえず否定しておく。

もともとの計画がばれたら、一番厄介なのはレヴィアンスだ。また「ずるい」と連呼される。

「何がおかしいんだよ」

「なんとなくそう思った。ボクやアーシェがニアと一緒にいると、ちょっと機嫌悪そう」

「そんなことない」

機嫌が悪くはないのだが。ただ、ちょっと寂しいだけで。

もし二人で来ていたら、ニアのあんな笑顔は見られなかったかもしれないと思ってしまって。

「食べないの?ルー」

「食べてる。ほら、レヴィにとられるぞ」

「ボクを何だと思ってるのさ、ルーファ」

どうしてニアと二人で来たいと思ったんだっけ。

どうして皆と一緒じゃ駄目だったんだっけ。

「ご飯終わったら、お化け屋敷に行こう。それから…」

アーシェの声を遠く聞きながら、考え込んでしまう。

自分は一体、何がしたかったんだろう。

 

お化け屋敷にはペアを決めて入ることになった。

じゃんけんで組み合わせを決めた結果、

「グレイヴちゃんと私ね」

「良かったわ、相手がアーシェで」

「ニア、怖がらないでよ!」

「レヴィこそ泣かないでよ」

「俺はルーファとだな」

「…そうですね」

グレイヴとアーシェ、ニアとレヴィアンス、ダイとルーファが組む事になった。

 

まずはアーシェたちが入っていく。

彼女たちはよく家族ぐるみで遊びに来ていたので、慣れたものだ。

「ねぇグレイヴちゃん」

アーシェは突然現れる幽霊の人形に全く驚かず、グレイヴに話しかけている。

グレイヴも周囲には無反応で、ただアーシェにのみ返事をする。

「何?」

「大尉と一緒じゃなくて良かったの?」

「なんでアイツと一緒じゃなきゃいけないのよ!」

暗闇でもグレイヴの顔が赤くなっているのがわかって、アーシェはくすくすと笑う。

従姉と上司の関係が面白くて、からかうのが日常になっている。

「大体、怖がらない女と入っても面白くないんじゃないの」

「そんなことないよ。暗いとこって人を大胆にさせるんだから」

「何言ってんのよ。またオリビアさんの受け売り?」

呆れるグレイヴと手をつないで、アーシェはにこにこしている。

こうしていればこれ以上怒られないことを知っているのだ。

従姉妹の力関係に、グレイヴは複雑な思いを抱く。

自分はアーシェに、一生勝てないかもしれない。

 

次はニアとレヴィアンスだ。

何かあるたびに良い反応をしてくれる二人は、お化け屋敷にとっては上客。

「うわぁぁっ!」

「びっくりしたぁ…」

それでもへたりこんだりせずに進んでいく。お互い弱いところを見せられない。

かつては大総統の息子同士、勝負までした仲だ。あまり弱点を知られたくない。

だから、強がりながら。

「ニア、怖かったらボクが手をつないであげてもいいけど?」

「レヴィこそ、泣きそうだったら僕にくっついてもいいよ」

本当は自分が怖いからそうしてほしい。

出口が見えてきた頃には、がっちりと手をつないでいた。

「レヴィが泣きそうだからつないだんだよ」

「ニアが怖いっていうから仕方なく…」

そんな言い訳も、先に出ていた女の子たちには笑われるだけだ。

特にアーシェにまでそうされたことは、ニアとレヴィアンスにショックを与える。

「アーシェちゃん、強いよね…」

「もしかしたらグレイヴより強いんじゃない?大尉にも勝てるかも」

こっそりした会話がわからなくて、アーシェは二人を見ながら疑問符を浮かべていた。

 

最後のルーファは不安を抱えていた。

ダイと二人で行動するという状況が、お化け屋敷の内容よりもずっと怖い。

「ルーファ」

「はい」

こうして話しかけられるだけでも、心臓に負担がかかる。

「どうしてニアだけ誘うつもりだったんだ?」

まして、こんなことを訊かれては。

「…どうしてでしょうね」

「ごまかすなよ」

「ごまかしてないです。本当に自分でもよくわからなくて…」

ちゃんと答えないと、まだ追及されるかもしれない。

だけど答えようがない。

「まぁ、わからないならいいか」

どうしようか迷っていると、意外にもダイはそこで話を打ち切った。

いつもならしつこく訊いてくるのに。

「答えられなくて、すみません」

「これに答えるのは難しいだろ。相手がニアならなおさらだ」

ダイの言っている意味がわからなくて、聞き返そうと思った。

しかしその前に。

「それにしても、どうせならグレイヴと入りたかったな。男と歩いても面白くない」

「…すみませんね、俺で」

ダイがいつもの調子に戻ったので、聞くに聞けなくなってしまった。

 

そのあとは絶叫マシンのオンパレード。

響くのはニアとアーシェの楽しそうな叫びと、それとは正反対のレヴィアンスの声。

次は何にする?と話す笑顔の二人と、目を回す一人を心配する一人。

それを笑って見ている一人と、呆れる一人。

「ねぇ、次はあれにしよう!」

「私、あれ大好きなの!行こう!」

「えぇー…まだ乗るのぉー…」

走っていこうとするニアとアーシェに、レヴィアンスが弱々しく呼びかける。

流石にこれはまずいと思い、ルーファとグレイヴが説得にかかった。

「ニア、レヴィがぐったりしてるんだが」

「落ち着きなさい、アーシェ」

「あ、ごめんねレヴィ」

「レヴィ君、疲れちゃった?」

認識がずれているようだが、一応は止まってくれた。

しかし、せっかくの足止めもこの一言で無駄になる。

「レヴィ、こんなことで疲れてちゃ駄目だぞ。帰りは俺の母さんが迎えに来てくれるそうだから」

ダイが爽やかな笑みを浮かべ、レヴィアンスの肩を叩く。

散々速くて怖い思いをした後に、まだ最凶のアトラクションが残っているのか。

「ボ、ボクは歩いて帰るから…」

「そんなふらふらで、歩いて帰れるわけがないだろう。それより今のうちに速さに慣れろ」

あとはちらりとニアたちへ目配せすれば、レヴィアンスの地獄が続行決定。

無邪気な笑顔が迫ってくる。

「大尉もそう言ってることだし、行こうよレヴィ」

「そうよ、まだまだアトラクションはたくさんあるんだから」

ダイはともかく、ニアとアーシェには悪気は一切無い。

だから余計にタチが悪い。

レヴィアンスは二人にずるずると引きずられていくのであった。

「ダイさん、余計なこと言わないでくださいよ…」

「俺は間違ったことを言ったつもりは無いけどな」

「アンタは本当に鬼上司よね」

 

屋内遊園地といえども、時間や季節が作り出す雰囲気を排除しているわけではない。

時間が経過すれば美しいイルミネーションも見られる。

この頃になると最も人気が出るのが、観覧車だ。

やっぱり最後に乗るのが定番、というアーシェの意見。

「でも皆一緒には無理みたいね」

あんな狭い個室に、子供とはいえ六人も入れない。

「俺がグレイヴと乗るから、お前ら四人で良いだろ」

「却下」

ダイの言葉は名前を出された本人により斬り捨てられる。

半分冗談だったのに、と呟く声が、肘うちによる呻きにかき消される。

バランスを考えると二人ずつに分かれたほうが良い。

組み合わせはお化け屋敷の時と同じ方法で決めた。

しかし、どういうわけか。

「結局アタシはアンタとなのね」

「これが運命ってやつだよ。さぁ行こうか、お姫様」

「誰が姫よ!」

ダイとグレイヴが一緒に乗ることになり、

「あ、ボクはアーシェとだね」

「レヴィ君、揺れても怖がらないでね」

「揺らすの?!」

レヴィアンスとアーシェで組ができ、

「最後の最後でこれか」

「そうみたいだね」

ルーファとニアが顔を見合わせ、笑った。

先頭はアーシェとレヴィアンス。片方は楽しそうだが、片方は不安そうな表情をしていた。

「アーシェ、揺らしちゃ駄目よ」

「そんなことしないよー。それよりグレイヴちゃん」

アーシェはグレイヴの耳元に囁く。

天使の微笑みが、このときばかりは小悪魔じみて見える。

「大尉と一緒で良かったね」

「!」

言い返そうと思ったときには、すでに相手の姿はなし。

上昇していく箱の中に、にこにこしながら手を振る少女。

「あの子は…」

「アーシェに何言われたんだ?」

「アンタには関係ない!」

顔を赤くしたままゴンドラに乗り込むグレイヴ。その後を追いながら、ダイが小声で言った。

「がんばれよ、ルーファ」

言われた方には何が何だかわからなかったけれど。

首を捻っていると、袖をひっぱられた。

「ルー」

いつものように、屈託のない笑顔。

 

穏やかな揺れにホッとする。

アーシェもさすがに観覧車は大人しく乗っているようだ。

「意外だったよ、アーシェがあんなに暴れるなんて」

「暴れるとか言わないでほしいな。私だって女の子なんだから」

「だから意外だったんだってば」

レヴィアンスが溜息をつくと、アーシェがくすくす笑う。

今日はとても疲れたけれど、楽しかった。

アーシェには、レヴィアンスがそう言っているように聞こえた。

たとえ気のせいでも、そういうことで良いよね?

そんな、ちょっと意地の悪い考え。

「そういえば、大尉が誘ってくれるのってすっごく珍しいよね」

「そうね。グレイヴちゃんだけならまだしも…」

グレイヴを誘うために、自分たちを使ったのかもしれない。

そう思ったのだが、それにしては順序がおかしい。

自分たちが誘われた時、すでにニアとルーファがメンバーに入っていた。

アーシェを先にすれば、グレイヴという目的は簡単に達成できるのに。

「…これ、もともとはニアかルーファの計画だったんじゃないかな」

「だったらどうして大尉が?」

「どうしてかな…ボクはルーファの様子がおかしいのも気になったんだけど」

「ルーファ君の?」

裏でどんな動きがあったのか、二人だけが知らない。

あれこれと考えて言い合っているうちに、頂上を過ぎてしまった。

てっぺんから見える光を見逃してしまったけれど、それ以上に興味を煽った想像。

最終的に、後でニアとルーファを問い詰めようということになった。

「真実を聞き出さなきゃ、気が済まないよ」

「どんな話が聞けるかな」

 

彼女は喋らないだろうな、とは思っていたけれど。

二人きりは、こんなに静かなものだったのか。

「楽しい?」

質問はキャッチャーを逸れていく。

相手はこちらを向いていない。

これ以上話しかけないほうがいいかなと思い、黙る。

ゆっくりと回るゴンドラ。窓から見える、ライトアップされた園内。

雰囲気は良いのに、会話がない。

普段はそれなりに言葉を交わしているのに。

そこまで考えて、ふと思い当たる。

「…もしかしてグレイヴ、緊張してる?」

この雰囲気だからこそ、声が出ないのでは。

返事はいらなかった。彼女を見ていればわかる。

「なんだ、ちゃんと俺のこと意識してくれてるんだな」

「誰がよ」

漸く小さな返答。

知ってるか?俺は君のそういうところを気に入ってるんだよ。

そう言ったら怒られるのは明らかなので、口にしないけれど。

「今度は二人でどこか行こうな」

「騒がしい場所は嫌よ」

「行ってくれるんだ」

「仕方ないから付き合ってやるわ」

そういえば今度、「世界のねぁー展」をやるんだっけ。

誘ったら、彼女は喜んでくれるだろうか。

 

がんばるって何を。

考え付くのは、お化け屋敷でのダイの質問に対する答えを見つけることくらいだが。

それは難しいと、向こうも言っていた。

「ルー、ほら見て!」

イルミネーションにはしゃぐニアは微笑ましい。可愛いとさえ思ってしまう。

でもそれがニアを誘おうと思った理由に繋がるだろうか。

確かに、笑顔が見たかった。

楽しそうなニアを、近くで見たかった。

だけどそれならいつもと同じで良かったのではないか。

今日のように、皆と一緒でいいはずだ。

でもニアがアーシェやレヴィアンスと遊んでいるのを見ているのは、何だか寂しかった。

観覧車での組み合わせを決めた時、ニアと一緒になれて嬉しかった。

ニアが自分と一緒にいることが、とても嬉しかった。

「どうしたの?考え事?」

「え、いや…」

いつの間にか難しい顔をしていたのだろうか。ニアが心配そうに覗き込んでいる。

ごまかしはきかないだろうけど、どう言えばいいのだろうか。

また考え始めてしまう前に、ニアが口を開いた。

「やっとルーと話せるね」

「え」

「僕、ずっとレヴィとかアーシェちゃんと一緒にいたから。ルーとちゃんと話せなかったなと思って」

同じ部屋だからいつでも話せるのにね。ニアはそう言う。

そうなんだけれど、今日は少し違う、特別な日にしたかった。

それはどうしてだろう。

「ニア、俺…本当はニアと二人で来ようと思ってたんだ」

「うん」

「何でそうしようと思ったのか、自分でもよくわからないんだけど…でも、そうしたかった」

「うん」

たくさんの時間を共有して、それでもなお二人でいたい。

どうしてそんなわがままを、思いついてしまったんだろう。

それがこうして叶っても、理由がわからない。

「なんだ、ルーはそんなことで悩んでたんだね」

「そんなことって…簡単に言うなよ」

「簡単だよ?僕にとってはね」

ルーファにずっとわからなかったのに、ニアは簡単だという。

すぐにその答えを導き出してしまった。

「…どうしてだと思う?」

「特別だから」

さらり、と。当然のことであるように、ニアは言った。

言ってから慌てて、僕だったらの話だよ、と付け加えた。

「僕にとってルーは特別だから、二人で遊びたいなって思うときもあるんだ。ルーもそうだったら、僕は嬉しい」

「特別って、どういうことだ?」

もうすぐゴンドラは天辺。

それに合わせたように、夜の太陽が咲いた。

「親友!」

初めて会ったときから、この笑顔は変わらない。

ずっと見ていられたら幸せだろうなと、あの時から思い続けている。

そうか、だからなんだ。

初めて会ったときは二人だった。

今も二人でここにいる。

「そっか…親友だもんな、俺たち」

レヴィアンスやアーシェ、それからグレイヴに、ダイも。

他にもたくさん人がいて、皆大切な人には変わりない。

その中でも、ニアは親友で特別。

そしてニアもそう思ってくれている。

「外、きれいだね」

この景色を二人で見ることが何より幸せだと思うのは、そういうことだったんだ。

 

帰りの車は少しばかりスピード制限を超えていたけれど、遊び疲れた子供たちには気づかれなかった。

寮生ではないグレイヴを先に送り届けると、起きているのは運転手以外にダイとルーファだけになる。

「答えはわかったか?」

助手席から尋ねられて、ルーファは頷いた。

「わかりましたよ」

「そうか」

それで?と目で訊かれ、得た答えを言う。

「ニアは親友だから…俺にとって特別なんです」

そうしたら、何故かダイは吹き出した。

きょとんとしたルーファには、笑うダイの真意がわからない。

「まぁ、今はそれでもいいんじゃないか?」

「…?」

結局わけのわからないまま、寮に到着する。

肩に寄りかかっていたニアを起こして、アーシェとレヴィアンスに声をかけて、

「それじゃ、また明日な」

また仕事の日々が始まることを思い出させる言葉を聞いて。

今日という一日が、終わっていく。

「楽しかったね」

「そうだな」

まだ眠そうな笑顔の親友と、手をつないだ。

 

「母さん、こっそり笑ってないで早く車出してくれる?」

 

 

Fin