師匠、好きな人が出来ました。
その人は真面目で、綺麗で、可愛くて、でも少し天然ボケです。
今はその人と一緒にいるときが一番幸せです。
まだ、片思い中なんですけど…。
でも、最近それが悩みの種にもなっています。
だって、その人は…
最近、気になる奴がいるんだ。
どうして気になるのかはわからない。
でも、そいつといるとなんとなく落ち着かない。
それにあいつの何気ない仕草にドキドキすることがある。
今までずっと一緒にいたのに、今さらだと思う。
自分はどうしてしまったのか。
俺にとってこれが、最近の一番の悩みになっている。
だって、そいつは…
私、好きな人がいるんです。
でもその人、今は違う人が気になってるみたい。
だって彼ったら、最近その人のことばかり見てるんだもん。
本人は、もしかしたら無意識なのかもしれないけれど…。
私の勘だとあの二人、両思いなのよね。
私、どうしたらいいのかな?
二人のこと、応援するべきなのかな?
でも、本当の私の気持ちは…
ある日のエルニーニャ軍中央司令部。
時刻は午後二時。ほとんどの者は書類整理などの仕事に追われている。そして彼も他の者と同じように書類整理をしてはいるのだが…
「はぁー…」
溜息などをついて全く仕事がはかどっていない。彼の横には書類の山があり、ペンは彼に使われるのを待つように傍らに転がっていた。
「はぁー…」
もう一度溜息をつく。最近は、溜息をついてばかりだ。
まあ、原因は自分が一番よくわかっているのだが…
「よお、シーケンス。溜息なんてついてどうしたよ?」
いきなり肩を叩かれたことに驚き、後ろを振り向く。するとそこには
「何だ、お前か。驚かせるなよな」
ライアンがいた。ライアンは自称「軍の情報屋」でどこから仕入れてくるのか、確かに軍の情報に関しては1、2を争う情報通だ。
しかも、彼が仕入れてくる情報が今までガセだったことは一度もない。
一応彼なりに仕入れた情報の裏づけ調査をしてからそれを提供しているらしい。
「何だとはつれないなぁ、俺とお前の仲だろ?相棒」
「悪いが、お前と相棒になった覚えはないな」
そう毒づいて追い返そうとしたが、彼は全く気にせずに向かいの椅子に座る。
「まあそう言うなって、お前のためにいい情報持ってきてやったんだからさ」
「いい情報?」
俺は胡散臭そうに彼を見る。彼の言う「いい情報」が当人にとっていいものだったことはめったにない。
「お前、あからさまに嫌な顔するなよな。お前のさっきの溜息の原因に関する情報なのに」
「お前なんかにそんなことわかるかよ」
「いいや、わかるね。お前のその溜息の原因。それはズバリ、恋煩いだ!」
彼のその一言に不覚にもビクッと身体が反応してしまった。
な、何でこいつ…
「そんなことわかるんだって顔してるな。フフン、俺の情報網を甘く見るなよ。
そしてさらに、その恋の相手を当ててやるよ。それはズバリ…フォース中尉だ!」
「なっ!何でお前…!」
そんなこと知ってるんだ?!誰にも言ったことなんてないのに!
「誰にも言ってなくたってわかるさ。俺の情報網使わなくても、お前さえ見てればな。
お前のフォース中尉への態度、以前とは明らかに違うからな」
俺の考えていることを見透かしたように追い討ちをかけてくる。全く、こいつだけは絶対に敵に回したくない。
「はあ、わかったよ。降参だ。で、結局お前は何しに来たんだ?俺をからかいに来たのか?」
「何言ってんだ、そんなわけないだろ。恋に悩む健気な少年に忠告に来てやったんだよ」
「忠告?」
「そっ。俺の情報じゃ、軍でフォース中尉を狙ってるやつ結構いるんだぜ?…男女問わず」
確かに、グレンさん容姿はいいし頭もいいからな。美人だし可愛いし。狙ってるやつが多いのは頷けるよな…って、ちょっとまて。
「男女…問わず?」
「おう、お前知らないのか?男どもにも人気高いんだぜ?フォース中尉」
「でも…グレンさんは男だぞ?!」
「なに言ってんだ、軍じゃ同性愛当たり前だろ?セレスさんがいるし。
なんなら俺が知ってるベストカップル教えてやろうか?特別に無料でいいぜ」
「いや…いい。ってか同性愛が当たり前ってのに何でセレスさんの名前が出てくるんだ?」
俺が聞くと、ライアンはなぜか頭を抱えた。
「おまっ、そんな有名な話も知らないのかよ?!でも、まあ今はあんまその話は関係ないからな。
お前が必要になってから教えてやるよ。とにかく、行動に移すなら早くしたほうがいいぜ。お前の恋にはライバルが多すぎるからな」
そう言って彼は去っていった。そのあと俺は、ただ呆然と手元を見ていた。そしてその頭の中では
軍でフォース中尉狙ってるやつ結構いるんだぜ?
という彼の言葉がまるでリピート再生しているかのようにずっと流れていた。
しかし結局、今までの関係が壊れるのが怖くて行動に移すことは出来なかった。
それから数ヶ月後、俺は寮母であるセレスティアさんの部屋へ向かっていた。話があるからと、急に呼び出されたのだ。
彼女の部屋に着いたところでノックをする。するとすぐにドアが開き、中から部屋の主が現れる。
「あら、カイ君。いらっしゃい、待ってたわ」
「失礼します」
彼女に招き入れられて部屋に入る。勧められて椅子に座り待っていると、彼女はお茶の入ったティーカップを俺の前に置いた。
「ごめんね、急に呼び出して」
「いいえ、今日は非番だったので。ところで、話って何でしょうか?」
なんとなく、予想はつくけど。
俺がそう切り出すと、彼女はくすくすと笑った。
「あら、少しゆっくりお話でもしてから切り出そうと思ってたのに。あなたも意外とせっかちさんね。
彼もあなたと同じことを言ったのよ。これはいいコンビになりそうね」
そう意味深なことを言うと、彼女は俺の前に一枚の紙と鍵を差し出した。
紙には一言。
『1067号室』
と書かれていた。
それが意味することは、ただ一つ。
「部屋割りの変更…ですか?」
「そうなの。もうすぐ新人の子供たちが入ってくるから、部屋を空けないといけないの。
だから一人部屋の子達に、二人部屋に移ってもらおうと思っているんだけど…カイ君、お願いできないかしら?」
「別に、いいですけど…。誰と相部屋になるんですか?」
俺がそう聞くと、彼女は楽しそうに笑った。
「それは心配しなくてもいいわ、あなたととっても仲のいい子だから。
でも、あなたを驚かせたいから当日まで名前は秘密。彼も、その条件を飲んでくれたわ」
「彼って、俺と相部屋になるやつですか?」
「そうよ。あなたも彼と同じ条件じゃないと不公平でしょ?」
そう言う彼女はとても楽しそうだ。絶対、何かをたくらんでいる。
でも、まあいいか。セレスさん、悪い人じゃないし。
「わかりました。部屋はいつ移動すればいいんですか?」
「来週末にお願い。私からお願いして、その日はカイ君にお休みをもらえるようにしておくから」
それに俺は了解の意を述べ、紙とカギを受け取って彼女の部屋を後にした。
それにしても、相手が誰かもわからないのに相部屋になることを承諾するなんて物好きなやつだな、そいつ。
まあ、俺も人のことは言えないけどさ。
とりあえず、来週末に向けて色々と荷物を整理しておかないとな。
そうして俺は自分の部屋へと道を急ぐのだった。
一週間後、俺はセレスさんに言われて部屋の移動を始めた。ひとまず一番大きな箱をひとつ抱えて新しい部屋に向かう。
部屋の前にさしかかかると、見覚えのある人が立っていた。傍らには小さな箱がひとつ置かれている。
「グレンさんじゃないですか!どうしたんですかこんなところで」
声をかけると、彼はこちらを見る。少し驚いたような表情をしたが、すぐにいつもの無表情に戻ってしまった。
「セレスさんに頼まれて、部屋を移動することになったんだ」
「へー、実は俺もなんですよ。グレンさん、新しい部屋ってどこなんですか?」
「ここだ」
俺の質問にそう答え、目の前にある部屋を指差す。その部屋のプレートには1067と書かれていた。
見覚えのある数字に、俺は慌ててセレスさんにもらった紙を見る。それには、確かに1067号室と書かれている。
「グレンさん、相部屋になる相手誰か知ってます?」
あまりにも自分に都合の良すぎる現状が信じられず、彼に尋ねる。しかし、俺の質問に彼は決定的な答えを返してきた。
「いや、知らない。セレスさんとの約束だからな。『当日のお楽しみ』だって」
やっぱり、そうなんだ。これは夢じゃないんだ。
俺は…
「グレンさん、あなたのルームメイト…俺みたいです」
彼にセレスさんからもらった紙と鍵を見せる。
すると、彼は驚きのあまりか一瞬動かなくなった。
「そう…なのか?」
「部屋の番号も一致するし、冗談ではないみたいです」
そう一言告げて、俺は彼に歩み寄る。
これは、チャンスかもしれない。彼との距離を縮める、チャンス。
俺の初恋、実らせることが出来るかもしれない。
俺は彼の手を取った。
「そういうわけなので、これからよろしくお願いします。グレンさん」
出来るだけ笑顔を浮かべて言うと、彼はどうしたらいいかわからなかったのか俯いてしまったが、
「ああ…よろしく、カイ」
とても小さな声でそう言ってくれた。
それが、俺にはとても嬉しかった。
それからというもの、俺はグレンさんと一緒にいる機会が増えた。
最初、グレンさんはずっと一人部屋だったからか落ち着かない様子だったけど最近は慣れたのか普通に2人で何気ない会話を楽しんだりする。
でも、なんか最近グレンさんの様子がおかしいんだよな。なんか、避けられてるみたいな。
いや、もちろんしょっちゅうじゃない。ごく稀になんだけど。
妙に俺から離れて歩いたりするし。この前なんか、仕事中にたまたまぶつかっちゃって思い切り突き飛ばされた。
俺…なんか嫌われるようなことしちゃったのかな?
でも、別に何もしてないよな?喧嘩もしてないし…
実際、普段はいつものグレンさんだし。
でも避けるときはとことん避けるんだよな、あの人。
今も一緒に部屋にいるけど、グレンさんはなぜか俺から離れて座っている。
「グレンさん」
「なんだ?」
「何でそんな離れたとこにいるんですか?」
「別に…理由はない」
「じゃあ、こっち来てくださいよ。なんか避けられてるみたいで悲しいです」
「べ…別に避けてるわけじゃない」
「なら、どうしてさらに離れるんですか?」
「いや…その……とにかく、避けてるわけじゃないから、気にしないでくれ」
と言われても、気になっちゃうんですけど…。
うーん、今度誰かに相談してみようかな。
リアさんとか、いいかな。
とりあえず、今は好きにさせてあげるしかないようだ。
結局、その日グレンさんは一日中俺に近づこうとはしなかった。
「リアさん、ちょっといいですか?」
廊下を歩いていた彼女に話しかける。彼女はすぐ俺に気づき、足を止めてくれた。
「どうしたの、カイ君」
「ちょっと、相談に乗ってもらいたいんですけど…」
「私でいいなら、いくらでも聞いてあげるよ。ちょうど今ヒマだし」
「じゃあ、第三休憩室行きません?」
「いいよ」
そうして俺は彼女と第三休憩室に入った。手ごろな椅子に座り、彼女にグレンさんのことを話す。
彼女は俺が話し終わるまで黙って聞いてくれた。
「つまり、グレンさんに最近避けられることがあるから不安なんだ。嫌われたかもしれないって」
「まあ、そんなとこです。同じ部屋に住んでるのに、嫌われてちゃ気まずいでしょ?」
グレンさんが好きだから。なんてことは言えるはずもなく、とりあえずルームメイトだからと言う理由でごまかす。
その俺の言葉に彼女は納得したらしく、真剣に考えてくれる。
「そうよねー、毎日顔を合わせるわけだし。でも、普段はいつものグレンさんなんでしょ?なら、大丈夫なんじゃないかな」
「そうですかねぇ」
「少なくとも、私から見ておかしなところはないし、カイ君が嫌われてるってことはないと思うな」
その彼女の言葉に、少し安心した。彼女は感情の変化には敏感だから、うそは言っていない。
彼女が大丈夫だと言うのなら、心配することはない。
「リアさんがそう言うなら、きっとそうなんでしょうね。相談に乗ってくれてありがとうございます。少し、楽になりました」
俺が言うと、彼女はにこっと笑ってくれた。
「どういたしまして。また何かあったら、相談に乗るからね」
そう言うリアさんにもう一度お礼を述べて、俺は彼女と別れた。
(やっぱりリアさんに相談して正解だったな)
俺は、軽い足取りで彼がいるであろう部屋に戻った。
一方その頃、第三休憩室にはカイと別れたリアがいた。
彼女の表情は、先ほどとはうって変って暗いものだった。
「やっぱり、こうなっちゃうのか…」
ひとり呟く。
もうずいぶん前からわかっていた。グレンと、カイの気持ち。
だって、あの二人はわかりやすすぎる。自分でなくても、わかっている者はいるはずだ。
彼らは、両思いなのだ。
カイは気づいていないようだが、グレンは確実にカイに好意を抱いている。
ただ問題なのは、グレンが自分の気持ちに気づいていないことだ。
いや、あれは気づいていないというよりは自分の気持ちが『恋』だということをわかっていない。
彼はそういうことには縁がなさそうだから、おそらく自分の気持ちの正体がわからずにかなり混乱しているはずだ。
それは、今日のカイの話から垣間見える。
今の状態では、彼らはいつまで経っても結ばれない。
できることなら、自分が手を貸してやりたい。
でも…
「私も…好きなんだよな。グレンさんのこと」
そう、自分も彼に好意を抱いている。あの日、彼が生け贄の祭壇で自分を助けてくれたその時から。
「まいったなぁ。私の…初恋だったのに」
初恋は実らないものだと言うが、本当にそうなってしまうようだ。
「仕方ないよね。好きな人には…幸せになってほしいもん」
でも、彼らに手を貸す前にまず自分なりにけじめをつけないと。
彼女は立ち上がり、休憩室を後にした。
「ライアン君、ちょっといいかしら」
私が声をかけると、彼はすぐに足を止めてくれた。
「リアちゃん!どうしたの?俺になんか用?」
声をかけられた本人はとても嬉しそうだ。
それもそうだろう。リア本人は知らないが、彼は数年前に結成された『リア・マクラミーファンクラブ』の一員なのだから。
「うん。ちょっとね、あなたに協力してもらいたいことがあって。いま、話いいかな?」
「もちろんさ!俺たちのリアちゃんのためなら何でも協力するぜ」
「じゃあ、まずは話を聞いて。第三休憩室でいいかしら?」
そして彼の手を引き、第三休憩室に向かった。
休憩室に着くと、二人は向かい合って椅子に座る。
テーブルには、先ほどリアが用意した紅茶のカップが置かれていた。
「私のお願いの前に、まず確認したいことがあるんだけど…」
「おう、俺の知ってることならなんだって教えてやるぜ。無料で」
「あのね、セレスさんに関してなんだけど…有名な話があるじゃない?
部屋割りの決め方のこと。あれって、本当なのかな?」
「あー、あれね。さすがにリアちゃんでも知ってたか。あれは本当だよ。
実際に、それで何組もカップルが誕生してるからな」
やっぱり…。
あの話が本当だということは、そういうことなんだよね。
…あれ?でも、おかしいな。
今日の話で彼は…。
「全く、リアちゃんですらこの話知ってるのに。何であいつは知らないんだ?
あいつ、意外とそういうことに疎いのか?」
「…あいつ?」
「ああ、カイのことだよ。だいぶ前の話なんだけどさ、あいつとそういう話になってそのとき判明したんだけど。
あいつ知らなかったんだよ、セレスさんの部屋割りの話」
…なるほど、これではっきりした。
カイ君の、今日の話。なぜ彼に嫌われていると思ったのか。
セレスさんの話を知らないでグレンさんの態度を見れば、そう思うかもしれない。
そういうことなら、急がないと。
2人の間に溝が出来る前に。
「ありがとう。そこまでわかれば十分。じゃあ、協力して欲しいことについて話すね」
そうして、私は彼にすべてを話した。
私のけじめの話。そしてそのあとカイ君と親しく、情報屋でもあるライアンの協力が必要なこと。
私がすべてを話し終えると、彼は少し悲しそうな表情をしていた。
「話はわかった。もちろん協力するよ。他ならぬリアちゃんの頼みだ、断るわけない。
俺の情報も増えるしな。でも…」
彼はそこで言葉を切り、私を見る。とても、真剣な表情で。
「君は…本当にそれでいいのか?」
そう言う彼の眼は、出来れば考え直して欲しいと私に訴えかけていた。
でも…
「うん、いいの。もう決めたから。私の気持ちは変らないわ」
私は決めたんだ。愛しい人のために、出来る限りのことをしようって。
愛しい人の、幸せのために。
私の答えを聞くと、彼はふうっと溜息をついた。
「リアちゃんも意外と頑固だねぇ。まあ、そこが魅力的なんだけど。…わかった。もう何も言わない。決行はいつだい?」
「来週、2人とも非番の日があるの。その日にお願いしたいんだけど、いいかしら?」
「オーケイ、来週だな」
彼はそう言うと椅子から立ち上がった。そして私に手を差し伸べる。
「じゃあ、やってやりますか。恋のキューピッド。全く、あいつら幸せものだぜ。
こんな可愛い子にキューピッドしてもらえるんだからな」
私は、その彼の手を取った。すると彼はすぐに私の手を軽く握った。私も握り返す。
「じゃあ来週。よろしくね、ライアン君」
「ああ、任せとけ」
それから、私たちは少しの間計画を練った。そしてそのあとはライアンに送ってもらって寮まで戻ったのだった。
最近、どうもおかしい。
何がおかしいって、俺自身がだ。あいつといるときの。
あいつといると、まるで俺が俺じゃないみたいだ。
きっかけは、間違いなくあいつと同じ部屋になったことだ。
同じ部屋になると必然的に一緒にいる時間が長くなり、プライベートなことも見えてしまう。
はじめは、全然気にならなかったんだ。なぜなら、それが当たり前なのだから。
でも、時が経つにつれてそうじゃなくなった。
なぜか、あいつの何気ない仕草にドキドキしたりするんだ。それも、今まで散々見てきたようなことにまで。
さらに困ったことに、あいつに触られると心臓が飛び出るのではないかと思うくらい鼓動が激しくなる。
この前なんて、少し身体がぶつかっただけなのに驚いて思い切り突き飛ばしてしまった。
すぐ謝ろうと思ったのに、あいつに聞こえるんじゃないかと思うくらい激しく心臓が鳴るものだから恥ずかしくなってその場を離れてしまった。
全く、自分はどうしたのだろうか。
それほど付き合いが長いわけではないが、今までずっと一緒にいたのにいまさら。
こんな感情は、知らない。
この感情に名前をつけるとしたら、いったいなんだ?
誰か、教えてくれ。
この気持ちの、名前は?
12月10日。
この日は、久しぶりの非番だった。たまたまあいつも休みで先ほどまで一緒に部屋にいたのだが、用事があるからと出て行ったきりまだ帰ってきていない。
俺は特に用事があるわけでもなく、一人時間をもてあましていた。仕方がないので、この間読んでいた本の続きを読むことにしよう。
そう決めて本に手を伸ばした、そのときだった。
ピンポーン。
部屋のチャイムが鳴る。
いったい誰だ?この部屋を訪ねてくるものなど、ほとんどいないのだが…。
不思議に思いながら、ドアを開ける。するとそこにいたのは…
「こんにちは、グレンさん」
リアだった。時間的に仕事が終わってまっすぐ来たのか、彼女は軍服のままだった。
「リアか、どうしたんだ?」
「ちょっとグレンさんに話があって…いま、いいですか?」
「ああ、ちょうど暇を持て余していたからな」
俺は彼女を部屋に招き入れた。
俺もカイもあまり部屋に物を置く主義じゃないので女性を招き入れても恥ずかしくない程度には片付いている。
彼女に椅子を勧め、自分も向かいの椅子に座る。
「リア、話って何だ?」
彼女に問いかけるが言いづらいことなのか、しばらく黙ったままだった。
彼女にしては珍しいが、俺はとりあえず彼女が話す決心がつくまで待つことにした。
俺が黙って待っていると、決心が固まったのかまっすぐに俺を見る。
その表情は、とても真剣なものだった。
「あの…グレンさん。とりあえず、何も言わずに聞いてくださいね」
そう前置きして、彼女は息を深く吸い込んだ。そして一言。
「グレンさん。あなたが……好きです」
その彼女の言葉に、一瞬頭が真っ白になった。
…好き?…リアが?…俺を?…なんで?
何とか思考回路が戻った頭は、そんな疑問がぐるぐると回っている。
そんな俺の様子を窺いながら、彼女は話を続ける。
「私、あなたが好きなんです。あなたが、祭壇から私を助けてくれたあの時から。
ずっと…好きでした。それで…あの……私と、お付き合いしてください!」
そう言って、彼女は俺を見つめる。つまり、待っているのか。俺の答えを。
こういうとき、どう答えたらいいのだろう。
俺は告白されるのは初めてだから、全くわからない。
でもこれは、とても大事なことだ。軽はずみな答えをしてはいけないことだけはわかった。
俺が悩んでいることがわかったのか、少しして彼女は遠慮がちに声をかける。
「やっぱり、好きな人とかがいるんでしょうか?そうでなくても、だめならはっきり断ってもらって大丈夫ですから」
そう言う彼女の『好きな人』という言葉をきいて、なぜかあいつの顔が浮かんだ。
あの、いつもへらへらして緊張感のない顔。
あいつへの気持ちが何なのか、いまだにわからない。
もしかしたら…もしかしたら、彼女と共に歩めば答えがわかるだろうか?
あいつへの気持ちの正体が、わかるだろうか?
これは、いい機会かもしれない。
そう思い、彼女に答えるため口を開いた。しかし、次の瞬間俺が発した言葉は
「すまない、リア」
俺の意思とは反対に、否定の意を告げていた。
自分の言葉に、自分で驚いた。
なぜ?
俺は、リアと付き合うことを決めたはずだった。
なのに、俺が告げたのは否定の言葉。
無意識のうちに、頭が拒否していたのか?
自分のわけのわからない発言に戸惑っていると、彼女が言葉を発した。
「そうですか……わかりました」
彼女は椅子から立ち上がり、俺に背を向け歩き始める。そしてドアの前で止まり、こちらを向いた。
「ありがとうございます、グレンさん。これで、私の気持ちに整理がつきました」
彼女は満面の笑みを浮かべる。しかし、それが俺には無理をして笑っているように思えた。
「本当にすまない、リア。俺は…」
「わかってます。グレンさんは、軽い気持ちで人と付き合える人じゃないですから。だから…」
そう言うと、彼女は再び笑みを浮かべた。そして一言。
「あの人のこと、大切にしてあげてくださいね」
「…あの人?誰のことだ?」
俺は彼女の言葉の意味がわからず問う。しかし、彼女は答えを教えてはくれなかった。
「それは、あなたが一番わかっているはずです。よく考えてください。
あなたにとって、一番大切な人。その人は、すぐそばにいるはずですから」
そう俺になぞかけを残し、彼女は部屋を出て行った。
俺の、大切な人。
彼女のなぞかけの答えとして出てくるのは、あいつだけだった。
もしかして、俺のこの気持ちの正体は…
すべてを終えて、彼の部屋を後にする。
部屋を出るとすぐ、緊張が解けたのか大きな溜息が零れた。
これで、自分の気持ちにけじめがつけられた。あとは、彼だけだ。
そうわかっているが、なかなか次の行動に移せない。やはり、彼の言葉がきいているらしい。
すまない、リア。
そう言われる事はわかっていた。承知の上で、彼に自分の気持ちを伝えた。
それなのに…
「やっぱり本人の口から聞くと、つらいなぁ」
呟いた途端、頬を冷たい雫が伝う。一度溢れてくるともう歯止めが利かないのか、次から次へと流れてきた。
「リアちゃん、大丈夫かい?」
少しして、ライアンの声がした。おそらく私が彼の部屋から出てくるのを待っていてくれたのだろう。
私は涙を拭い、彼に笑いかける。
「大丈夫よ、ライアン君。さあ、次のステップに移らなきゃ」
「…本当に、いいのか?今なら、計画を中断することも出来るぞ?」
彼は心配そうに言う。しかし、私の答えは決まっている。
「大丈夫、やるわ。ここで中断したら、さっきの私の行為が無駄になっちゃう」
「そうか…わかった。じゃあ、俺は俺の仕事をしに行くよ。リアちゃんも、後で来てくれよ」
「うん、わかったわ」
私は手を振り彼を見送る。
とりあえず、私は一度部屋に戻ろう。戻って、少し落ち着かなくちゃ。
あとは彼がいれば大丈夫。
私は、女子寮に向かい歩を進めた。
「よー、シーケンス。元気かー?」
廊下を歩いてると、ライアンに声をかけられた。相変わらずの間抜け面に、溜息をつく。
「何だよ、なんか用か?」
「友達に向かってなんか用かはないだろー」
俺が明らかに不機嫌そうに言うと、ライアンは頬を膨らませて抗議する。
あー、気色悪い。
「で?何なんだよ。用があるならさっさと言えよ」
「用があるって言うか、忠告に来てやったんだよ」
「忠告?」
「そっ、フォース中尉のこと。お前、いまだにアタックしてないだろ?いい加減にしないと、本当に誰かにとられるぞ?
フォース中尉のことは、だいぶ前に教えてやっただろ?」
ライアンは呆れたように言う。
ああ、そのことか。
そのことは、俺もわかってはいるんだ。でも、どうしても行動に移せない。
だって…
「何言ってるんだ。グレンさんは男だぞ?あの人が、同性の俺を受け入れてくれるわけないだろ?俺は、今の関係を壊したくないんだ」
そう、このまま何も言わなければ少なくとも彼のそばにいられる。告白などして、それを拒否されたらもう彼のそばにはいられない。
そんなのは、嫌だ。
「おまえなぁ、そんなことじゃセレスさんもがっかりするぞ?
しょうがない、お前が知らないとっておきの情報を教えてやるよ」
ライアンはそう言うと、俺にしか聞こえないように小声で囁く。
それを聞いて、俺は驚きのあまり一瞬思考が止まった。
「ライアン。それ…本当か?」
俺の問いかけに、彼はいやらしい笑みを浮かべる。
「俺の情報がガセだったことが、今まであるか?」
たしかに、ライアンの情報がガセだったことは一度もない。
だとしたら……俺には、まだチャンスがある?
「…ライアン」
「なんだ?」
「俺…行かなくちゃ!」
「…やっぱりな。これを教えてやればお前なら絶対そう言うと思ったぜ。
よっしゃ、行って来い!応援してるからな!」
「ああ!」
ライアンの声を背に、俺は彼の待つ部屋へと急いだ。
『寮母のセレスさんいるだろ?あの人、将来のカップルを見抜く目がすごいんだよ。
彼女が同室にしたやつは、男女関係なくほとんどが近い将来カップルになるんだぜ?』
部屋に向かう間、ライアンのその言葉だけが頭を支配していた。
「ライアン君、うまくいった?」
「ああ、ばっちりだ。今頃あいつ、中尉に愛の告白してるんじゃないか?」
「さすがね。やっぱりあなたにお願いしてよかったわ。本当にありがとう」
「何言ってんだ。リアちゃんのためなら、何だってするぜ。結果はわかりきってるからな、明日が楽しみだ」
俺は部屋の前で足を止める。
彼に会う前に、息を整えなければ。
少しして呼吸が落ち着く。俺はゆっくりとドアノブに手をかけた。
「グレンさん、今戻りました」
部屋に入り声をかけると、おかえりという彼の声が返ってくる。
よかった、どこかに出掛けたりはしなかったらしい。
彼は本を読んでいた。どうやらこの間読んでいた本の続きを読んでいるようだ。
「グレンさん、話があるんです」
俺が声をかけると、彼は本から目を離しこちらを見てくれた。
リアが帰ってすぐ、とにかく俺は自分の気持ちを整理しようとした。
しかしやはりまだ自分の気持ちの正体に確信が持てない。
俺は結局、気晴らしに本を読むことにした。傍らにあった本をとり、読み進める。
少しして、ドアが開く音がした。どうやらカイが帰ってきたらしい。
「グレンさん、今戻りました」
彼の声が聞こえてくる。俺は本からは目を離さず、お帰りとだけ声をかけた。
「グレンさん、話があるんです」
帰ってきて早々、彼はそんなことを言う。
先ほどのリアのこともあったため、内心少しドキッとした。しかしそれを悟られるわけにはいかない。
俺は平常心を装い、彼を見た。
彼の表情はとても真剣なもので、そこにへらへらした緊張感のないいつもの彼の顔はなかった。
グレンさんはベッドに座っていた。俺も隣の自分のベッドに腰掛ける。
「グレンさん。大事な話なんで、きちんと聞いてくださいね」
俺はそう前置きをして、深呼吸をする。
彼に告白すると決めたものの、いざそのときが来るとやはり緊張してしまう。
彼は俺がなかなか言い出さないにもかかわらず、急かすことなく黙って待ってくれている。
それを見てようやく決心をし、口を開く。
「こんなこと、急に言われてもあなたが困るだけなのはわかってます。でも、どうしても伝えたくて」
俺はベッドから降り、グレンさんの前に行くと座っている彼に目線を合わせるために膝立ちの状態になる。
そして彼の手を取った。
「グレンさん。俺は…あなたが好きです。とても、とても…愛しています」
俺が何も言わないでいると、カイは自分のベッドに俺と向かい合うように座り込んだ。
「グレンさん、大事な話なんで、きちんと聞いてくださいね」
そう言うと、カイは深く深呼吸をした。こんなに緊張した様子の彼を、俺は初めて見る。
今彼が俺に言おうとしていることは、彼にとってそれほど重要なことなのだろう。
なかなか言い出せないのも、そのせい。俺に先を急かすことはできない。何も言わず、彼が話し出すのを待つ。
少しして、ようやく決心がついたのか、彼が口を開く。
「こんなこと、急に言われてもあなたが困るだけなのはわかってます。でも、どうしても伝えたくて」
そう言うと、カイはベッドから降りて俺の前まで来る。そして俺と目線を合わせようと思ったのだろう。
彼は膝立ちの状態になり、俺の手を取った。
その手はとても…あたたかかった。
「グレンさん。俺は…あなたが好きです。とても、とても…愛しています」
俺が告白すると、さすがに驚いたのだろう。グレンさんは呆然と俺を見ている。
この状態で彼の耳に届くかはわからないが、俺は告白を続けた。
「俺、ずっとあなたが好きだったんです。いつからかはわかりません。
でも、一緒にいるうちに少しずつ惹かれていって…いまじゃ、あなたなしでは生きていけません。
この気持ちが迷惑なのはわかっています。どう言い訳しても…同性ですからね、俺たちは。
もちろん俺の気持ちを押し付けるつもりはありません。嫌なら嫌とはっきり言ってください。それで俺は、諦めますから」
俺の気持ちをすべて伝える。グレンさんは、何も言わず俺の話を聞いてくれていた。
いや、あれはただ現状についていけなくて聞くことしか出来なかったのかもしれない。
とにかく、伝えなければならないことはすべて伝えた。
あとは、彼からの返事だけ。
「グレンさん。あなたの…気持ちは?」
突然のカイの告白に、俺は頭が真っ白になった。
まさか、一日に二度も告白されるとは思いもしなかった。しかも、男から告白されるなんて。
頭の中を整理しようとしても、なかなか上手くいかない。ただ、あいつの言葉だけははっきりと流れ込んできた。
「俺、ずっとあなたが好きだったんです。いつからかはわかりません。
でも、一緒にいるうちに少しずつ惹かれていって…いまじゃ、あなたなしでは生きていけません。
この気持ちが迷惑なのはわかっています。どう言い訳しても…同姓ですからね、俺たちは。
もちろん俺の気持ちを押し付けるつもりはありません。嫌なら嫌とはっきり言ってください。それで俺は、諦めますから」
俺はただカイの話を聞くことしか出来なかった。やはり頭の中が整理しきれない。
でも、真剣に考えなければ。彼の気持ちに、正直に答えなければ。
「グレンさん。あなたの…気持ちは?」
彼が返事を求める言葉を紡ぐ。
俺の気持ち?…わからない。俺の気持ち。俺はこいつを…どう思ってる?
そう、自分に問いかけたときだった。
彼女の、あの言葉が頭をよぎる。
よく考えてください。あなたにとって、一番大切な人。その人は、すぐそばにいるはずですから。
俺の…一番大切な人。
目を閉じ、心を落ち着かせて良く考える。
考えて、考えて。やはり出てくるのは…目の前にいる、こいつだった。
彼女が言っていたこと…こういうことだったのか。
そうわかった途端、今までの悩みがすべて解決した。
なぜこいつといるとこんなにドキドキするのか。ただ触れただけで恥ずかしくなってしまうのか。
それらが、すべてを物語っていた。
俺はいつの間にか、こいつのことを…
「カイ。俺は…おかしいんだ」
彼に伝えよう。彼がすべてを伝えてくれたように、俺も。
俺が返事を待っている間、彼は目を閉じて何か考え事をしていた。
少しして、彼は決心したように口を開いた。
「カイ。俺は…おかしいんだ」
「…え?」
ようやく口を開いた彼からは、予想外の言葉が出てきた。
俺はその言葉の意図がわからず、とにかく続きを聞いてみようと彼を促す。
「おかしいって、何がですか?」
「はじめは、全然気にならなかったんだ。でも最近、お前といるとおかしいんだ。
ただ一緒にいるだけでドキドキするし、お前に触られるとすごく恥ずかしくなるんだ」
彼の言葉に、俺は驚いた。この彼の告白の意味、それはつまり…
「そのわけが、今ようやくわかった。どうやら俺は…お前のことが好きだったみたいだ」
それを聞いて、俺はうれしさのあまり叫びだしそうになった。
やっぱり、それって…
「あの、それって…俺の告白、受けてくれるってことですか?」
俺が訊くと、彼は顔を真っ赤にして俯いてしまった。しかし、小さかったがはっきりと彼は答えてくれた。
「ああ。これからも…よろしく頼む」
そのときの彼があまりにも可愛くて、俺はくすくすと笑ってしまった。
俺の笑いに、彼は不服そうな顔をする。
「何でそこで笑うんだ」
「いや、なんでもないんです。…グレンさん」
俺が呼びかけると、彼はこちらを向いてくれた。その顔は恥ずかしいのか、いまだに真っ赤だった。
「…なんだ?」
「あの…抱きしめてもいいですか?」
「…別に、かまわない」
彼の了承を得、俺は彼の背中に腕を回す。腕に少しだけ力をこめた。
初めて近くで感じた彼の身体は、とてもとてもあたたかかった。
「グレンさん、好きです。大好きです。何度言っても、足りません」
「…そうか」
グレンさんはそれしか言ってくれなかったけど、それで十分だった。
ようやく手に入れた、俺の恋人。
もう、絶対に手放さない。
何があっても、絶対に。
俺の気持ちを伝え、彼に初めて抱きしめられた。
やっぱり俺の胸はあいつに聞こえるんじゃないかと思うくらい激しく脈打っている。
でも、今までとは明らかに違っていた。
これまでは、ただドキドキするだけだった。でも…いまは。
(ただ抱きしめられてるだけなのに…こんなに落ち着くんだな)
ドキドキしているのに落ち着くなんて、自分でも矛盾してると思う。
でも彼の腕の中は、とてもあたたかくて…心地よかった。
「グレンさん、好きです。大好きです。何度言っても、足りません」
彼は懸命に自分の気持ちを伝えてくる。でも、俺はなんだか恥ずかしくて好きだとは言えなかった。
「…そうか」
そう言うのが、精一杯だった。でも、いつかきちんと伝えよう。
俺も、お前のことが一番大切なんだってこと。
(カイ、俺も…愛してる)
数日後、俺が仕事をしてると当たり前のようにあいつがやってきた。
「よー、シーケンス。元気そうじゃん。その様子だと、フォース中尉とはうまくいったみたいだな」
「まあな、お前のおかげだよ」
ライアンには感謝してるからな。素直に礼を言う。すると、ライアンは驚いたという仕草をした。
「こりゃまた、まさか素直に礼を言われるとは思わなかったぜ」
「何だ、ひねくれて礼を言って欲しかったのか?」
「そんなことないさ。これで俺も一肌脱いだ甲斐があるってもんだ」
ライアンと少しの間会話を楽しむ。少しして時計を見る。もう定時の時間は過ぎていた。
「やばっ、もうこんな時間か。ライアン、悪いけどまた今度な」
「さては、フォース中尉だな」
「ああ、今日は二人で食事に行くんだ。初めてのデートってやつ。だから邪魔するなよな」
「ばーか。誰がするかよ」
ライアンの言葉をスルーし、急いで部屋に向かう。これからの時間が、とても楽しみだ。
部屋に着くと、すでに彼は支度を始めていた。
「グレンさん、遅れてすみません」
俺も慌てて支度をする。一通り終わると、彼に手を差し出した。
「じゃあ、行きましょうか。グレンさん」
「ああ」
その俺の手を、彼は素直に握り二人で部屋を出た。
師匠、好きな人が出来ました。
その人は真面目で、綺麗で、可愛くて、でも少し天然ボケです。
今はその人と一緒にいるときが一番幸せです。
その人は、男だけど…
俺の大切な大切な、恋人です。
「グレンさん、大好きです」
「…ああ、わかってる」
俺は、この人と一緒に生きていきます。
大切な、彼と…ずっと。