広い軍施設の敷地内には、身寄りのない者や生前にそこへ葬られることを希望していた者らが眠る墓地がある。
彼らは殉職者であるから、軍の資料に生きた証が記録されている。
しかしそこにあるのは、関わった仕事や功績であり、個人の人となりといったものはやはり近しい者たちの胸に刻まれている。
わたしの父の親友は、若くしてこの世を去ったという。
父に大きな影響を与えた人物だったようだ。
わたしと兄は、その人についての話をよく聞かされた。兄の名前はその人に由来しているといったことなど、何度も聞いて記憶している。
父が親友を、親友が父をどれほど好きだったか、わたしたちは伝聞だけでも充分に理解できた。
「お父さん、ニアさんはそんなにお兄ちゃんと似てるの?」
ニア・ジューンリーの名が彫られた墓碑の前で、わたしは父に何度目かの質問をした。
「優しいところも、本気で怒ると恐いところも、よく似てるよ」
父は微笑んで答える。
「それから笑顔が太陽みたいに明るくて、あたたかいのも」
「生きてたらお兄ちゃんと並んでもらったのに」
「そうだな、そうだったらすごく幸せだっただろうな」
ニアさんは、父の原点であり、人生の象徴だという。
彼がいなくなってしまった後、父は幸せを失ってしまったのだろうか。
「今は幸せじゃないの?」
「幸せだよ」
しかし、わたしの問いに父は即答した。
「お母さんがいて、ニアがいてイリスがいる。友達もたくさんできた。俺は親友を失ってしまったけれど、不幸になったわけじゃない」
父はわたしの頭を撫でて言う。
「あいつが生きてたらもっと楽しかったのは、間違いないけど」
「うん、わたしも会ってみたいな」
供えた花が風に揺れた。
軍の一員として、人として、父を今でも支え続けているその人が、すぐそこにいるような気がした。