ふと気がつくと、エイマルは椅子に座っていました。どこか見知らぬ場所に、椅子だけがぽつんとあるのです。
「おかあさん。おじいちゃん」
呼んでみても、思う姿は見えません。椅子から立ち上がることもできず、ただただ心細くなるばかりです。
困り果ててしまったエイマルがあたりを見回していると、どこからか声が聞こえてきました。
「誰を探しているんだ?」
その声は、エイマルの大好きなおじさんのものによく似ていました。けれども、少し違う気がします。
首をかしげていると、声は笑いました。
「そうか、わかんねぇよな。会ったこともねぇから、仕方ない」
エイマルがますます混乱していると、姿の見えないその人はこう言いました。
「俺は、お前のじいさんだ」
「おじいちゃん?
でも、おじいちゃんの声と違うよ?」
エイマルには一緒に住んでいるおじいちゃんがいますが、その人とは全く違う声です。それに、毎日会っています。
「お前のいうおじいちゃんってのは、母さんの父さんだろ?
俺はお前の、父さんの父さんだ」
「おとうさんの、おとうさん?」
確かに、その人とは会ったことがありません。エイマルが生まれる前に、死んでしまったと聞きました。
「お前は、自分の父さんのことは知ってるんだな?」
声が尋ねます。エイマルは頷いて、答えました。
「おじさんが、おとうさん。でも、おとうさんって呼んじゃいけないの」
「そう教えられてんだな」
見えない「おじいちゃん」は、深いため息をつきました。
「お前の父さんがそう言うのは、俺のせいでもある。俺が生きてりゃ、そんなことにはならなかったんだ」
「そうなの? ……よくわかんない」
お父さんをおじさんと呼ばなければならないことは、エイマルには難しい問題でした。ただ、そうしないといけないようだからそうしていました。
大好きな人に、悲しそうな顔をしてほしくないのです。
「エイマル、お前は優しい子だ」
そのとき、頭にふわりと何かが触れました。撫でられたみたいでした。
「お父さんって、呼べるようになるといいな」
ちょっと寂しそうに、「おじいちゃん」は言いました。でも、とても優しい声でした。
目が覚めると、エイマルは見た夢をすっかり忘れていました。
けれども、なんだか胸のあたりがぽかぽかしていました。