「女子力って何なんですかね」
昼の第三休憩室に、ぽつりと落とされた一言。落とし主はカイだったが、すぐにアーレイドに拾われた。
「そういえば、下級の女の子たちが話してました。軍人でも女子力を鍛えなきゃって」
「そうか、力だから鍛えるものなんだ。でも何をどうしたら鍛えたり身に付けたりできるんだろう」
「それは……どうなんでしょう」
不思議そうに首を傾げる後輩たちに、待ったをかけるのはカスケードだ。そもそもどうしてそんなことを突然話題にしたんだろう。
「女子力なんてどうしたんだ? また悪友の入れ知恵か?」
「そうですね、ライアン情報です。なんでも、リアさんは女子力が高いらしいですよ」
軍きっての情報屋がいうのであれば、話題になっているのは間違いないのだろう。しかし、その力の根本がなんであるかはわからない。
「女子力ってことは、女の子らしさとか? でも何をもって女の子らしいとするんだろうな……お淑やかさとかか?」
それならリアさんは高そうだ、とツキが言うが、カイは首を横に振る。
「意外に大雑把なところありますよ、リアさん。お淑やかな人が鞭振り回して、悪人や怪物と戦いますかね」
「それは軍人だから仕方ないだろ。あ、でも、だからこその『軍人でも女子力を鍛えなきゃ』発言があるのか」
しかしただのお淑やかさで説明できるのだろうか。だいたい、淑女然と振舞わなくとも女の子らしい女の子は沢山いる。
悩み始めたところで、第三休憩室に人が増えた。下級兵教練を終えてきたらしいディアが、伸びをしながら部屋に入ってくる。
「あー疲れた。教練監督めんどくせぇ。……なんだ、なんで静かなんだよ」
「ちょうど良かった。不良、女子力ってなんだと思う? 最近では軍人でも鍛えなきゃいけないようなものらしい」
最も女子力とは縁遠そうな男に尋ねることで、なにかヒントが得られるかもしれない。カスケードはそう思ったのだが。
「女子力……胸のでかさか?」
ろくな答えが得られなかった。
「不良はすぐそっち方面に行く……だからアクトに肘打ちと蹴りのコンボ喰らわされるんだぞ」
「だって、それ以外に何があるってんだよ。女といえば胸だと俺は思う」
「最低ですね」
ディアを散々非難したあとで、再び男性陣は考え込む。女子力とは。女子が鍛えたいものとは。
……可愛さとかはどうでしょう。女の子ってなんでも可愛いっていいますし、可愛いものは好きですよ」
アーレイドがそう言って、一同はハッとする。たしかに自分たちの班の女子も、可愛いものは大好きだ。ねぁーですら可愛いという。
「じゃあ女子力持ってるのって、女子に限らないんじゃないですか。可愛いならグレンさんだって可愛いですよ」
「カイ、落ち着け! グレンはわりと男前だと思うぞ! 可愛い物好きなら、アクトやハルは?」
「アクトは女子通り越して姐御だ」
「ハルは可愛いですよ。甘いものも好きです。わりと女子っぽいかも……あ、でも怪力」
そもそも女子力が何なのか、わからないうちは話にならない。こうなったら女性陣に直接訊いてみるしかなさそうだ。

しばらくしてやってきたリアたち女性陣に、まずはカスケードが尋ねた。
「リアちゃん、女子力って何だ?」
「突然ですね。ええと、端的に言えば、女性が自らの魅力を高めようとする力でしょうか。きれいになりたいと思ったらお化粧に気を配るとか、スタイルよく保ちたいなら食事に気をつけるとか。センスを良くしたいなら衣服や小物なんかにこだわると、女子力が高まりますよ」
なるほど、納得のいく説明だった。つまり、自分の理想の形なのだろう。道理で女の子がこぞって女子力を鍛えようとするわけだ。
「女子力を鍛えるっていうのは、自分を高める勉強をすることなんだな。だったら女子に限らないんじゃないか」
「はい。男性にも女子力高い方はいますよ。例えば家事全般が得意だと、女子力高いです」
フォーク君とかそうですね、とリアが言うと、ツキが同意した。
「そうだな、フォークは朝起こしてくれるし、起きたらもう朝飯ができてるし、出勤の時は見送ってくれて、昼には弁当届けてくれて、帰ったら迎えてくれて、夕食も風呂の準備も整ってるんだ」
「ツキ。それもう奥さんかお母さんだぞ」
「奥さんや母さんは女性ですよ」
「やっぱり女子力……!」
その後もわいのわいのと語り合う男性陣を、女の子たちは首をかしげて見ていた。