一年で一番、夜の時間が長くなる頃。北の国から魔法使いがやってきて、子供の願いを一つだけ叶えてくれるといいます。
一年に一度きりのことですから、子供たちはみんな、一所懸命に願い事を考えます。欲しいものが手に入りますように、なりたいものになれますように、魔法使いにつながっているという空に向かってお祈りします。手紙を書く子もいます。
エイマルにも願い事がありました。魔法使いが北の国から来るというのなら、お父さんを連れてきて欲しいと思ったのです。
エイマルのお父さんは、北の大きな国で仕事をしています。その土地の平和を守るための、大切な仕事なのです。そのため、なかなかエイマルに会いに来られませんでした。
お父さんが北の国を離れたら、平和を守るための仕事は、一体誰がするのでしょう。代わりの人はいるけれど、一番えらいのはやはり、お父さんなのです。
エイマルはそんなお父さんを誇らしく思っています。北の国の子供たちが笑っていられるように、毎日懸命に仕事をしているお父さんが、エイマルは大好きです。
そのお父さんが魔法使いに連れられてエイマルのところへ来てくれたら、エイマルは嬉しいです。でも、北の国の子供たちは、そのあいだ笑顔でいられるでしょうか。
もう一度よく考えて、エイマルは魔法使いへの願い事を決めました。空に向かって、願い事を唱えます。
どうか北の国の子供たちが、ずっと笑顔でいられますように。そのためにお父さんが、元気で、正しい仕事ができますように。それさえ叶えば、エイマルは少しくらい寂しくたって平気です。
夜空を星が流れていきました。まるでエイマルの願い事を聞き入れてくれたかのようです。エイマルは安心して、ベッドに入りました。
きっと今夜も、北の国の子供たちは、お父さんに守られて、暖かい布団で眠ることができるでしょう。お父さんがそうしてくれるでしょう。
「エイマル、寝ちゃったのか」
電話の向こうで、お父さんが言いました。
「うん、だから明日、もう一度電話してちょうだい。寂しくても平気だなんて言ってるけど、やっぱりお父さんの声は聞きたいだろうから」
お母さんが相槌を打ちます。するとお父さんは、ははは、と小さく笑いました。
「うん、俺もエイマルの声が聞きたいよ。年末は仕事が忙しくなるからな、帰れなくてごめん」
北の国で、エイマルのお父さんは今日も一所懸命に働いています。北の国の子供たちの笑顔を守るために、それを知ったエイマルが笑顔になるように、仕事をしています。
この仕事が終われば、年が明けたら、少しだけ家に帰ることができます。そうしたら、一番にエイマルを抱きしめようと、お父さんは思っていました。
お父さんにも願い事があります。それは、エイマルとお母さんが、笑顔でいてくれることです。
エイマルもちゃんと、それを知っています。