エルニーニャ軍に入隊できるのは十歳からと規定されている。ごく稀に例外が発生するが、それこそ頂点たる大総統が何らかの画策をはたらいたときくらいしか起こらず、しかも外面的には全く問題なく見える程度の例外だ。
所属している者の家族が施設を訪れることはある。だが、まずもって重要な情報の集まる場所には通されない。それがたとえ幼児でもだ。
――ということになっているはずだと。破天荒な活躍が目立つ彼女ですら、そう考えていた。
「ツキさん。誰ですか、その子」
「……んー……なんて説明すればいいのか」
軍への通報や依頼任務の受付を担当し、その履歴を保管する役割も担う「外部情報取り扱い係」――通称「電話番」。特別な事務室には、原則として軍内の人間しか出入りできない。
しかし本日、この部屋を仕事場としているツキ・キルアウェートの机は、子供に占領されていた。見ず知らずの、いや、よく見れば知っているような奇妙な幼児に。
ラディア・ローズがまじまじと見つめる視線に気づいた幼児は、顔を上げて懐っこく笑った。揺れる髪の色は暗い青色、細めた瞳は絵葉書で見る海の色をしていた。

その日の朝、ツキはいつものように職場にやってきた。彼の仕事は主に事務で、軍人としての肩書は持ちつつも現場に出ることはあまりない。一時期、実動班のサポートが増えた頃には大立ち回りに参戦したりもしたが、最近はまた内勤が中心だ。
電話番の仕事は、外の現場中心の人間が思うほどには暇ではない。市井と軍の間に入り、ときに頑丈だがよく響くノッカーのあるドアに、ときに激しい矢の雨にさらされる堅牢な壁になり、常識に幾分か乖離が生まれてしまう空間同士を繋いでいる。
時間があれば履歴等の資料を整理し、今誰かに必要そうなものがあればそれをまとめて届け、どういうわけか内部の各種書類の回収まで行い、毎日くたくたになるまで働いているのだが、苦労はなかなかどうして他人には伝わりにくい。
伝わっていないから、余計な仕事を増やされることもある。なのでいつも仕事の段取りを考えるときは、余計な仕事のこともある程度考慮する。そんなの変よ、と親しい仕事仲間は言ってくれるが、そういう彼女もまたオーバーワークに陥ってしまうことがある。彼女ほどコンピュータを扱える人員が、まだ軍内に少ないためでもあるのだが。
本日も余計なこと込みの大まかな予定を組み立て、仕事に取り掛かるつもりだった。この部屋は今日は一人で使う。電話番用に割り当てられている部屋の、一番狭いところに一人。大きな体躯には少々窮屈だが、業務の段取りをほんの少しだけ自分の都合で動かせるという点では楽だ。――だが、今日はそんなわずかな余裕さえも許されない日のようだ。
「キルアウェート軍曹はもう出勤しているかな」
ノックもせずに入ってきた人物は、軍服に白衣を羽織り、口を縛った大きな袋を抱えている。どなたですか、と尋ねる間もこちらには与えず、その人はずかずかと部屋に押し入り、ドアを閉めた。袋は床にそっと置いたので、貴重品が入っているのかもしれない。
「あの、何か」
「これを頼む。とりあえずは今日の夜まででいい」
袋を指さした人物に否応を唱えられると思えなかった。盗み見た相手の階級バッジは少佐だ。
「これは何ですか? 説明を頂かないと、うっかり不適切な扱いをしてしまっては互いに良くない」
「そうだな。まあ、君なら悪いようにはしないと思うが」
少佐が屈んで袋を開ける。大きな袋は動かなかったから、まさか中身が生物だとは思わなかった。
体長は一メートルに満たないくらい。白く裾の長い衣服を着せられ、その背中が呼吸にあわせて穏やかに上下している。頭は暗い青色の毛が豊かに覆い、微かに横顔が覗けた。
これ以上は思考を放棄したい、とツキは思った。夢であってくれ、と願うほどに冷や汗が流れた。
少佐は「私は科学部の者だ」と遅すぎる自己紹介をした。
「今日、監査が入ることになってな。いくら研究に必要だったとはいえさすがにこれは倫理的にまずかろうということで、隠し場所を探していた。君なら身内みたいなものだし、こんなところに一日籠っているわけだし、退屈しのぎということでここはひとつ」
「言ってることもやってることもめちゃくちゃですよ。さすがにこれは無理です。それに……」
寝返りを打った生物が、夢じゃないんだなあ、と暢気に言っているように見えた。今はここにいない、よく知っている声が、頭の中にクリアに再生される。
「夜まででいい。カスケード・インフェリアの幼体を預かれるのは、君だけだ」
身内みたいなものって言うなら、せめて人間扱いしてやれよ。そう思ってしまうということは、どうやら自分は諦めモードに移行しつつあるらしい。良くも悪くも、順応は早いほうなのだ。

「……というわけで、今ここは倫理観のぶっ飛んだ科学部に利用されているんだ」
「よくわかんないので、私なりに整理してもいいですか?」
「どうぞ」
虚ろな目をしたツキの隣で、ラディアは聞いた話をまとめ始めた。目は一生懸命に鉛筆を握って動かす幼児に釘付けのまま。
「科学部の人が、たぶんこの一年くらいで起きた事件に関することで色々実験してたんですよね。その結果としてこの小さいカスケードさんができてしまったけれど、監査とやらにひっかかるといけないので、こうしてお友達のツキさんのところに押し付けてしまえと企んだ」
「それで合ってるんじゃないか。多かったしな、クローン技術の悪用。仕組みを解明して悪用を食い止める方法を探るのは科学部の仕事なんだろうけど、それならそれで責任は持ってほしい……」
この一年で、およそ無理だと言われていた技術を使った事件が次々に起こり、そのたびに軍が対処してきた。ツキやラディアが深く関わった案件もいくつかある。そしてカスケード・インフェリア――もちろん目の前にいる幼児ではなく本物の――はその最深部に手が届いていた人間だった。
今、彼はそのこともあって、東の小国に行ってしまっている。ここにいるはずがないので、目の前の幼児は科学部の仕業によってできた似て非なるものだ。それが明らかなだけ、まだ焦りは少ない。
「ツキさんに押し付けたのは、この部屋を使っているからでしょうか。鍵もかかるし、隠すには都合がいいですよね」
「階級で見るとラディアさんより下だしな、俺。それで扱いやすいと思われたのかもしれないし、あるいは逆に扱いにくい奴を避けたのかも。ちびケードの預け先なんて、本物が人気者なんだからいっぱいあるはずだ」
「ですね。だからといって誰でもいいというわけにはいかなかった。だってたとえばディアさんとかだったら、激怒して科学部を破壊しますよ」
「関係者ではあるけれど、こういうのが大嫌いな現リーダーからは遠ざけたい。俺ならきっと訴えないだろうと踏んで、しかもそれは悔しいことに正しかった」
ラディアがここに来たのは偶然だ。誰も来なければ、ツキは一日独りでやり過ごしただろう。軍にいないはずの人間が、こんな無防備な姿で存在しているなんて、噂でも広まってしまったら大変なことになる。当然本物の耳にも入り、余計な心配をさせてしまう。
彼がいる東の小国は、現在大きな問題を抱えている。それを解決に導くために行ったのだから、こんなことでこちらに気を回すようなことがあってはいけない。
「私、ちゃんと内緒にします。ちびケードさんが騒ぎにびっくりするといけないですし」
「恩に着るよ、ラディアさん。……あ、でも、人手は欲しいかな。さすがに子守しながら仕事もするのは難しい」
「そうですね。今日はそんなに大きな仕事がなくて、口が堅い人で、できれば子供に慣れてる人……」
条件にほぼ合致する、共通認識。ツキとラディアには、それがちゃんとあった。頷き合う二人を、カスケード、いや、ちびケードは首を傾げて見上げていた。

大きな仕事がないどころか、彼女は非番だった。にもかかわらず、話を聞いて司令部にやってきてくれ、今はこの狭い部屋で目をきらきらさせている。
「私が知ってる頃よりもずっと小さいわ。可愛い……」
「リアさんは昔のカスケードさんもちょっとだけ知ってたんですよね。ちびケードさんのお世話もできますか?」
「どうかしら。男の子の扱いはちょっとわからなくて」
リア・マクラミーは三人姉妹の長女である。小さな妹たちの面倒を見てきた実績があるので、ちびケードの相手もできるかと、ラディアは考えたのだった。
「カスケードさん本人ではないのよね。記憶があるとかそういうことも」
「ない。俺のことも『誰だこのおじさん』みたいな目で見ていた」
「ツキさん、まだおじさんって感じはしないですよ。お兄さんです、お兄さん」
苦笑しながら、リアはちびケードの手元をそっと覗き込む。ずっと描いていた絵は、この年頃にしては描線が暴れていない。
「わあ、上手ね。何を描いていたのかな?」
「ちゅき」
拙く発せられる声を、ツキはこのとき初めて聞いた。もちろん、ラディアとリアもである。
「ちゅき? ……ああ、もしかして」
リアはツキの顔を見る。数秒、ツキはぽかんとしていたが、意図に気付くと目を見開いた。そのあいだにちびケードが、今度ははっきりと対象を指さして言う。
「ちゅき!」
「ちゅきじゃない、ツキ。ちゃんと発音しろ」
「ちゅーき?」
「ツキだって」
「まあまあ、ツキさん。正しく言おうとしてるんですよ、この子」
わかってはいる。ツキにだって、年の離れた弟がいるのだ。幼い頃は舌っ足らずに「おにーたん」と呼んでくれたのを、今でもはっきり覚えている。
だが、ちびケードに名前を呼ばれるのは違う。自分はこの子供の本来の姿を知っている。本来の話し方や声、そして人を呼ぶときの調子を把握している。だからこそ、こんなふうに呼ばれるとくすぐったいような痒いような感覚が腕や首筋を走っていく。
「私はラディアです。らーでぃーあ」
一方ツキほど違和感がないのか、ラディアは積極的に自分の名前を言わせようとする。ちびケードは首を傾げながら、口を開いた。
「らーじー?」
「うーん、大体合ってます。カスケードさんは私のこと、ラディとか薔薇姫とか呼びますし」
「そうね。私も覚えてもらっちゃおうかしら」
女性陣はすっかりちびケードがお気に入りのようだ。これなら、夜までの時間をリアに任せられるかもしれない。休みを使わせてしまうのは申し訳ないから、あとで上に代休を頼んでおこう。
「じゃあ、俺はちょっと仕事を」
「私もお仕事します」
「はいはい。私はここで、ちびちゃんとお絵描きでもしようかな」
リアは肩にかけていたバッグから色鉛筆とスケッチブックを、ウェストポーチからクレヨンを取り出した。他にも色々遊び道具を持参しているようだ。
「ツキさんのお仕事の邪魔にならないよう、おとなしく遊ばないとね。この子はそもそもおとなしそうだけど」
「見た目はカスケードなのにな。……ああでも、あいつは親父さんとうまくいかなくてグレたんだっけ」
このまま育ったら、この子はカスケードによく似た、けれども全く違う人間になるかもしれない。――育つことができたら、だが。

昼まで、特に問題なく時間が過ぎた。今日は珍しく電話をとることも少なく、資料の整理も捗った。ラディア以降、人が訪ねてくることもない。
「もしかしたら、ラディアちゃんがうまいこと食い止めてくれてるのかも」
「そうだな。ラディアさんにもリアさんにも、後でお礼はたっぷりするから」
「おかまいなく。私は楽しいですよ、ちびちゃんとお絵描き」
リアの持ってきたスケッチブックも、ツキが与えた裏紙も、すっかり色とりどりに染め上げられている。ちびケードはツキの他に、ラディアやリアの絵も描いたらしい。「らじー」「いあ」と言いながら絵を指さす姿は、慣れてくると確かに可愛らしかった。
「ちゅきー」
「ツキな。どうした、ちび」
「ぐーぐー」
口をとがらせながら自分の腹をてちてち叩くちびケード。ツキが怪訝に思うと、リアが時計を見上げて考える。
「お腹が空いたのかも。もうお昼ですし。でも、この子のご飯をどうしたら……」
食堂に連れて行くわけにはいかない。だったら、この部屋で食べさせるしかない。何か調達して来ようと、ツキが自席を立ちかけた。
「お疲れ様でーす。デリバリーに来ましたー!」
タイミング良く現れたのはラディアだ。どうやら何かを持ってきてくれたらしいが、彼女の手は両方とも空いている。では、何を、誰が。
考えるまでもなく、彼女の後ろを見る。
「ツキに隠し子がいるんだって?」
「アクトさん、お疲れさまです」
「お疲れ。隠し子じゃない」
ラディアが連れてきたのは、アクト・ロストート。たしかに今回の場合、上司では一番頼りになりそうだ。なにしろ姐御である。
「こちらがちびちゃんです。可愛いでしょう」
戸締りを確認してから、リアがちびケードを紹介する。感情の起伏が大きく顔には出ないアクトだが、このときばかりはわかりやすく微笑んだ。
「カスケードさんの色だ。あの人も小さい頃はこんな感じだったのかな」
「多分な。科学部が連れてきたって話は?」
「ラディアがわかりやすく説明してくれたよ。カスケードさんの元カノがマッドサイエンティストだったの、今更ながらすごく納得した。環境って怖いね」
そういえばそうだった。そのマッドサイエンティストな元カノとの一悶着で、ツキはカスケードと喧嘩をしたことがあったのだが、すっかり忘れていた。だが、カスケードがそのとき死にかけたことはよく覚えている。
なおさらちびケードのことを外部に漏らすわけにはいかないと思い直す、そのあいだ。アクトはてきぱきと食事の準備を進めてくれていた。
「スープとパンなら、この子も食べられますね」
「一応ピーマンが入らないようにしたけど」
「本物だったら絶対入れるのに、ちびには優しいな」
大人はこっち、とサンドイッチも用意してくれていた。ラディアは事務所に戻ってすぐにアクトに相談したらしく、これらは昼までに拵えておいたものだった。
「その子、夜まで預かるって?」
「科学部にはそう言われた。……でも」
「そうだな、夜まで……もつといいけど」
紅茶を淹れながら、アクトは目を伏せる。おそらくは同じ懸念を持っているのだろう、とツキは思う。ちびケードはパンを美味しそうに頬張り、リアとラディアに褒められている。
「ひとつ確実に、限界だろうと思うことがある」
ツキは自分の椅子の背にもたれかかり、部屋の隅に追いやった袋を見る。ちびケードが入れられてきた袋には、着替えが一着と、幼児用の紙パンツが一緒に入っていた。
「ちびケードがおとなしいから忘れてたけど、大人が気にしてやらなきゃいけなかった……」
「見た目がカスケードさんだから、リアには頼みにくいしね。わかるわかる」

午後の仕事が始まり、ちびケードはまた遊び始める。今度はリアが持ってきた色紙を折っていた。
「手先が器用ね。カスケードさんと一緒」
「紙を鳥の形にするのとか、あいつは得意だったな」
「とい」
ツキに応えるように、ちびケードは折った紙を見せる。鳥に見えないこともない。
「ちゅき」
「え、くれるのか? 貰ってもなあ」
「私もお花貰いましたよ。小さい頃から優しい子だったんでしょうね、カスケードさん」
性格形成には環境が関係すると思うが、ちびケードは今まで科学部でどういう扱いを受けていたのだろうか。あの少佐の口調からして、人間としては見られていないのではないかと思ったが、実はもっと良い環境にいたのだろうか。
――でも、どんな環境にあったとして、長時間科学部から離されていれば……。
裏で密かに発展していた技術を、国家が有効に使えるように研究し、利用していくことを訴えたのはカスケードだった。それは国のためというよりも、もっと近くの、リアたちを守るためにやったことだった。
ちびケードが作られることになったのも、その過程の一つだろう。他の人を利用させまいと、カスケード自身の体を使わせたことは、容易に想像がつく。
そうして裏の技術を再現できたのだとしたら、ちびケードのこの先の運命は決まっている。この子がどうなるのか、カスケードとともに事件に深く関わってきた人間なら、よく知っている。
「見たんでしょうか、この子。鳥とか、花とか。ずっと科学部のラボにいたら、普通は見られませんよね。……もしかして、少しは記憶が」
「ない。ちびはちびだ、カスケードじゃない。似ているだけの、別のものだ」
もつといいけど、とアクトは言った。もってくれなければ困る。その瞬間が避けられないとしても、直接見たくはない。

終業時間が近付いてきたので、ツキはリアに礼を言って、彼女を帰した。もう大丈夫、ラディアにもよろしく、と声をかけると、リアは一瞬苦し気に目を伏せた。
「今日は有意義なお休みでした。また困ったことがあったら呼んでくださいね。では」
ちびケードに手を振るときにはもう笑顔だった。泣き顔だったのはちびのほうだ。
「リアちゃんとのお別れは寂しいよな。たくさん遊んでもらったし」
何よりあんた、彼女のことが本当に大切だものな。――本来なら本人に言うべき言葉が、自然に頭に浮かんだ。
しょんぼりした幼児を抱き上げると、確かな感触。まだ大丈夫だ、大丈夫なはずだ。どうか、迎えが間に合ってほしい。
「……こんなに普通で、小さい頃のフォークとも変わらないのに」
この子は、長く生きられない。裏が作り上げた精巧なクローンだって、体組織を安定させる薬品に体を浸けることができなければ、肉が崩れて死んでしまう。ただでさえ不安定な幼児の体が、どうなるのかわからない。
カスケードと一緒に仕事をしてきた人間なら、誰もがその認識を持っている。その前提で、今日一日を過ごした。
「泣くなよ、ちび。溶けるぞ」
頼むから、少しでも長く、笑って生きてくれ。
その願いを外から聞いていたかのように、ドアは再びノックもなく開かれた。
「お疲れ様、キルアウェート軍曹」
「……監査とやらは、大丈夫でしたか」
「切り抜けた。君のおかげだ」
ああ、それじゃあ、またこの子と似たようなものを作るかもしれないんだな。この国のために。

翌日から、また電話番は忙しくなった。狭い部屋の中を動き回り、ときには部屋から出て廊下を駆けまわり、夜にはくたくたになって帰路につく。
もう誰も、あの小さな子供の話をしない。あれは夢だったのかと思うほどに。
そしてもう二度と聞かれないのかもしれない。
「科学部、いくつか研究が凍結されそうなんです。昨日の監査で、ちょっと問題があったので」
手を怪我してから事務方にまわるようになったアルベルトが、ツキが事務室を訪れた際にそう言った。彼は電話番を訪れていないし、誰もあの白昼夢のような出来事を話してはいないはずだ。けれども科学部の人間を揺さぶればわかることだ。あるいは彼もまた関係者なので、科学部のほうから何らかの話があったのかもしれない。
「……そっか。でも、俺にはあんまり関係ないだろ」
「そうですね。お互い自分のお仕事を頑張りましょう」
あれはちょっと迷惑で、ほんのりと穏やかな、一時の夢。
現実の彼は、異国で今日も元気にやっている。そうに違いない。