今年の勤務が終了した。最後の月の猛烈な忙しさからはひとまず解放され、数日は仕事のために頭を働かせずに済む。全く考えないわけではないが、80%が40%になるだけでも随分楽だ。
帰宅してそう言ったら、家で仕事をしていた相方は呆れた。
「もうちょっと割合どうにかならない? 4割を3割、ううん、できたら2割かなあ」
「そうできたらいいんだけど、勤め先が親の会社なもんで」
会社を取り仕切っているのはフォース家、ルーファの名刺に印刷されている名前はシーケンス。名乗る家名は違うが、家族だということは多くの人が知っている。
ルーファにはいつだって、後継というプレッシャーがかかっている。もっとも、そう思っているのは周囲の人々で、親子間でそういう取り決めがされているわけではない。
「休みの間くらい、周りの目とか忘れたら。ニールと遊びに行くとかしたらいいよ」
相方のニアは呑気そうな調子で言うが、彼も実は名家の生まれで、後継問題とは常に向き合っている。ルーファとは方向性がまるで違うけれど、他人の勝手な期待というものはある。
「お前はどうなんだよ」
「僕まだ仕事納めてない」
「そうじゃなくて」
「わかってる。ひとりだったらずーっと仕事のこと考えてたと思う。でもルーとニールがいるからね、そうしないようにしてるんだよ、これでも」
微笑んだニアの、本当のところをルーファはわかっている。一緒にいるのが自分だけなら、足りなかっただろう。子供――ニールの存在があって、やっとそこまでたどり着いたのだ。
ニアは否定するかもしれないが、彼は誰から見ても我が子を溺愛している。彼の父親がそうだったのと、そんなに差がない。でもうっかり「カスケードさんみたいだな」なんて言うと、あんなに過保護じゃない、と返される。
「いつ仕事終わるんだ」
「これだけ打ち合わせ終わらせないと。年が明けたら作業にかかりたい」
「休みは少なそうだな」
今度はルーファが呆れる番だ。
けれどもきっと、ニールの予定次第になる。家族と一緒に過ごす時間がないと、ニアだってやさぐれてしまう。
「休みはのんびりしような。どこか行こうか?」
「家にいたいな、僕は。ニールが出かけたいなら行くけど」
「やっぱり基準はニールか」
眠っている我が子が目覚めたら、ゆっくり話をしよう。新しい日々の、楽しい話を。