動物さんがいっぱい出てくる「ドキュメンタリー」をみました。かわいい動物さんが次々に映って、フィーはわくわくしました。
 赤ちゃんもいっぱい見ました。赤ちゃん動物さんは、おとなの動物さんに似ているのと似ていないのがいました。でも、似ていないのもだんだんおとなに似てきます。
 赤ちゃんがうまれるところは、ちょっとだけこわかったです。でも、すごいなあと思いました。
「フィーがうまれたとき、どうだった? かわいかった?」
 いっしょにテレビをみていた、トビにーちゃとサシャにーちゃにききました。サシャにーちゃはニヤニヤして言いました。
「フィーはな、ちっちゃくてくしゃくしゃだったよ」
 さっきのおさるみたいに! というので、フィーはサシャにーちゃをたたきました。にーちゃはフィーのことをかわいいって言ってくれないからです。おさるのことはかわいいって言ってたのに。
「フィー、サシャを叩いちゃいけないよ。サシャも素直に可愛かったって言えばいいのに」
「はいはい、可愛い可愛い。生まれたときから今までずーっと可愛いよ」
「ちゃんと言って! ねえトビにーちゃ、サシャにーちゃは? おさる?」
 サシャにーちゃもおさるみたいだったら、人のことをからかっちゃいけないのです。自分に返ってくるって、かーちゃが言ってました。
 トビにーちゃはにっこりして、そうだねって言いました。
「サシャもおさるみたいに、ちいさくてくしゃくしゃだった」
 ほーら、やっぱり! フィーはニヤニヤをしかえしします。サシャにーちゃはお口をとがらせて、ほっぺをぷくっとふくらませました。
 するとトビにーちゃは、フィーとサシャにーちゃの頭にそっと手をおいて、なでなでしました。
「サシャもフィーも両方、とっても可愛くて、抱かせてもらうとちゃんと重くてあったかくて、俺が絶対に守らなきゃって思ったよ」
「ほんと?」
「ほんとのほんと」
 トビにーちゃは腕を広げて、フィーとサシャにーちゃをぎゅっとしました。フィーは嬉しくて、サシャにーちゃはお顔が赤くなっていました。
「ねえねえ、トビにーちゃは? うまれたとき、ちっちゃくてくしゃくしゃで、かわいかった?」
 フィーはトビにーちゃを見上げてききました。トビにーちゃはちょっと困った顔をして、うーん、と言いました。
「俺のことは自分じゃわからないからなあ……」
「じゃあ、とーちゃとかーちゃは知ってる?」
「ええと……」
 トビにーちゃの手がゆるくなったので、フィーはぬけだして、とーちゃのところにいきました。
 とーちゃはお写真のおしごとをしています。おひざにのぼると、どうしたの、と言われました。
「とーちゃ、トビにーちゃはうまれたとき、ちっちゃくてくしゃくしゃでかわいかった?」
 フィーがきくと、とーちゃはにっこりしました。
「トビはね、生まれたときはめちゃくちゃ泣いてたよ。小さくて細かったから、ご飯をたくさん食べさせたんだ」
「そしたら、今みたいにおっきくなったの?」
「そう。大きくて頼れる兄ちゃんだろ」
 そうなのです。トビにーちゃはサシャにーちゃよりおっきくて、サシャにーちゃとおなじくらい優しくて、フィーは大好きなのです。
 でも、泣き虫だったのははじめて知りました。
「とーちゃ、トビにーちゃはかわいい?」
「可愛い。トビもサシャもフェリシーも、めちゃくちゃ可愛いよ。オレとかーちゃにとって宝物だからね」
 当然じゃん、と、とーちゃはフィーをなでなでしました。強めのなでなでだったので、髪の毛がちょっとぐしゃぐしゃになりました。とーちゃだからゆるしてあげます。
 かーちゃもフィーたちをかわいいって言うかしら。おしごとからかえってきたら、きいてみようと思いました。


「兄ちゃん、父ちゃんがああ言ってくれて良かったね」
 危ないなあ、とサシャは溜め息をついた。俺たちが本当の兄弟ではないことを、小さいフェリシーはまだ知らない。
 両親と血の繋がりがあるのは、サシャとフェリシーだけ。俺は運良く父さんと母さんに出逢うことができ、サシャが生まれる前にこの家の子供になった。
「……案外、父さんは嘘を言ってないよ」
「兄ちゃんが生まれたときのこと、父ちゃんは知らないじゃん」
「ううん。父さんと母さんに出逢って、やっと俺は生まれることができたんだよ。それ以前はトビって名前もなかったからね」
 ――お前は運が良いよ。これからオレがいくらでも、お前に自分の人生を選ばせてやれる。
 父さんはそう言って、俺に手を差し伸べた。痩せた名無しの子供に「トビ」と名付け、ハイルの家の一員にした。
 俺の人生は、そこが始まりだ。
「あの人は嘘をつかない」
「……へーえ。父ちゃん、かっこいいね」
 サシャは嬉しそうに言ってから、少し照れて「兄ちゃんも」と付け加えてくれた。