我々は最も思考の読めない存在についてできるだけ解明しようと思う。
そのために彼女を一日観察してみた。
これは研究である。決して遊びではない。
午前七時、起床。
「おはよう、ラディアちゃん」
「おはようございまーす」
研究対象は寮生だ。
同室のリア・マクラミーに挨拶した後、普通に支度を始めた。
食堂で朝食をとり、元気に出勤する。
「リアさん、これ何ですかー?」
花壇の花に気付いたようだ。
「これはパンジーよ」
「ぱんじーっていうんですかー」
よくこうしてリアに講じてもらっている。
色々なものに興味深々なお年頃なのだ。
とはいえ、彼女はもう十七歳。いくらかはものを知っていなければならない。
「ぱんじーって食べられますかー?」
従ってこのような質問は彼女独特のものと言えよう。
「うーん…やめたほうがいいと思うよ。」
リアも戸惑っている。しかし、これでも慣れた方だ。
今日の仕事は指令型任務だ。
地方の村の視察なので、私服での行動となる。
いつものように運転はグレン、助手席にカイ、後部座席にリアと研究対象が座る。
「リアさん、どーしてそんなに胸おっきいんですか?」
いきなり問題発言。
後部座席からの声に運転手が戸惑っている。
助手席は運転手の反応を面白がっている。
「え、それは…わかんないわ」
「何食べたらそんなにおっきくなるんですかー?」
「うーん…その話は帰ってからにしましょう。
今はお仕事中だから」
なんとか切り上げるが、車は今にも事故を起こしそうだ。
研究対象は非常に危険だということが証明される。
任務は何事もなく、あっさり終わった。
戻ってきてから毎回恒例のギャンブル大会を観戦する。
「ディアさんってなんでそんなに弱いんですかー?」
研究対象は屈託なく人の神経を逆撫でする。
「うるせぇ、黙れ」
「あー、私にうるさいって言いましたねー。
アクトさーん、ディアさんが虐めるんですー」
研究対象は意外とちゃっかりしているようだ。
「ラディアもやってみるか?教えてやるよ」
「わーい、ツキさんありがとうございまーす」
研究対象はポーカーに挑戦するようだ。
奇跡の強運ラッキースターツキの手ほどきで、輪に参加する。
「こうですかー?」
「…そう、なんだけど…」
研究対象がカードを見せると、ツキの表情が変わった。
先ほどまでの余裕の表情が、全く無くなってしまったのだ。
「じゃあ出しますよー。それっ」
他の参加メンバーの表情も変わった。
彼女の破天荒な強運に驚きを隠せない。
「…ラディ、ツキの強運をどうやって奪った?」
「えー?そんなのわかりませんよー」
あのカスケードが震えている。
これ以上ゲームを進めることは、更なる恐怖を生み出す可能性がある。
一同は休憩を終え、仕事に戻ることにした。
その日の仕事が終わり、全員が帰宅した。
研究対象は夕食後のおやつを作るリアの手伝いをしている。
「ラディアちゃん、フライパンとってくれる?」
「誰を殴るんですか?」
「…ホットケーキを焼くの。フライパンは人を殴るものじゃないわ」
研究対象の認識は恐ろしい。
下手をすれば後ろから襲われるかもしれない。
「そうだ、ハル君とアーレイド君におすそ分けしようか。
ハル君ホットケーキ好きだって言ってたし…」
「私が行ってきます。ご飯終わったらですよね」
「うん。お願いね」
研究対象は夕食後、お使いに行くようだ。
果たして今度はどんな破天荒行動を起こしてくれるのだろうか。
「はーい、どなたですか?」
ドアを開けたハルに、研究対象は笑顔でホットケーキを差し出した。
「これおすそわけ。ハル君、ホットケーキ爆弾好きって言ってたから」
「爆弾?!」
ハルがおろおろし始める。
研究対象はいったいどこから爆弾という言葉を導き出したのだろうか。
「アーレイドぉー!ラディアさんが爆弾もってきたー!」
「いや、本気じゃないだろ」
アーレイドは破天荒慣れしたらしい。
ある意味ハルも破天荒なので、慣れるのが早かった。
「美味しそうなホットケーキだな」
「リアさんのお手製爆弾だよ。どかーんってするよ」
「いや、そろそろ爆弾から離れろよ」
「ラディアさん、わざわざありがとう。ボクとアーレイドで美味しくいただくね」
研究対象はお使いを終えると、急いで女子寮に戻っていった。
自分も「ホットケーキ爆弾」を食するために。
研究対象は主に言動に問題があるということが今回の調査でわかった。
しかし、彼女は周囲に愛されている。
大暴れしても憎めない、それがラディア・ローズなのだろう。
以上で今回の研究をまとめたいと思う。
「ところで、あなただれですかー?」
…研究者ですよ。