まだこの大陸に大国が存在しなかった時代。

五つの地域が領土を奪い合い争っていた頃。

赤毛を束ねた男が一人、東方地域で馬を駆っていた。

彼はその地を統率する者との交渉がついさっき決裂したことに苛立ちと悲しみを抱いていた。

戦をまだ終わらせることができないということに、自らの持つ望みをほとんど失っていた。

これから生まれてくる我が子が、戦乱の中で生き延びることができるかどうか、たいそう気がかりだった。

せめて少しでも気を紛らわせることができればと、彼は東部の端の、海の見える場所に立ち寄った。

そこは崖と巨岩しかない寂しいところだった。だが、岩の間から見える海の輝きがとても美しいことを、彼は知っていた。

人のいない場所を通りここまで来る途中に見つけた絶景だった。

彼は馬を足場の悪くなる場所の一歩手前につなぎ、一人その先へ進んでいく。

波のぶつかる、激しくも心を落ち着けてくれるその音に耳を澄ます。

だが、彼は気付く。その中に微かな声があることを。

あれは赤子の泣く声だ。

彼は足を速め、必死で声を聞き分けながら、その場所に辿り着いた。

布一枚に包まれただけの、生まれたばかりの赤ん坊が転がっている。

その髪は夜を迎えようとする空のような暗い青色をしていた。

「誰か、赤ん坊を連れてきた奴はいないか?!」

小さな体を抱き上げて、彼は呼びかける。返事はなかった。ならばこの子は捨て子なのだろうか。

かわいそうに、こんなところに放置されてはじきに死んでしまうだろう。

ならば自分が連れ帰り、この子を育てよう。たとえ戦乱の中に生きることを強要することになろうとも。

その決心が届いたのか、赤子は泣き止み、彼を見た。

真っ直ぐに彼を見つめる瞳は、眼前に広がる海と同じ美しい色をしていた。

 

「大将、お帰りなさいませ!」

「大変なんですよ、奥方が…」

そう言って彼に駆け寄ってきた青年達は、彼の腕に抱かれた赤子を見てぎょっとした。

当然だ。東方へ遠征に行った土産が、まさか子どもだとは思ってもみなかったのだから。

「大将、隠し子ですか?!」

「酷いですよ、奥方が一人で頑張っていたというのに!」

「違うって、途中で拾ったんだ。ここまで連れてくるの苦労したんだぞ、水は殆どコイツにやっちまったし…」

長旅だったにもかかわらず、赤子は生きていた。健康状態もそれほど悪くはなさそうだ。

彼は赤子を青年に渡すと、自分の妻の所在を尋ねた。

「ナナはどうした。テントにいるのか?」

「そう、そうなんですよ大将!さっきお子さんがお生まれになったんです!」

「それなのによそで子どもを作ってくるなんて!」

「生まれた?!どうしてそれを早く言わないんだ!あ、それとその子は作ったんじゃなくて拾ったんだってば!」

赤毛をなびかせ、彼は一目散に妻のいるであろうテントへ向かって走る。

「ナナ!」

愛するものの名前を叫んでそこへ飛び込むと、妻と産婆が目を丸くして彼を迎えた。

「リックさん、あんた帰ってきてたのかい」

「おかえりなさい、リック」

「あぁ、無事だったんだなナナ。…それで、子どもは?」

肩で息をしながら、彼は小さな姿を探す。それは産婆の腕の中で、すやすやと眠っていた。

彼と同じ赤い髪を持つその子を抱き、産婆はにっこり笑って言う。

「とても元気な男の子だよ。リックさんにそっくりだ」

「男の子か…ナナ、実はオレ、途中で赤ん坊を拾ったんだ。その子も男の子だ」

「あらまぁ、あなたってばもうこの子に兄弟を作ってくれたの?」

妻は驚きながらも笑顔だった。どうやらすぐに信じ、一緒に育てることを許してくれたらしい。

ならばすぐに二人に名前を付けなければ。

「ナナ、オレたちの間に生まれたこの子はワイネルと名付けよう。そしてオレが拾った子は…ガロットでどうだ?」

ワイネルは子どもができてからずっと付けようと思っていた名前。ガロットとは古代に使われていた言葉で、岩場の意を指す。

逞しく育ってくれるようにという願いを二人の子に託し、中央の大将リックは失った希望を取り戻そうとしていた。

 

リックは中央に生きる者全てを家族だと考えていた。

この土地に住まう全員が、ともに生活するかけがえのない仲間達であると、彼はいつも子どもたちに言い聞かせていた。

「いいか、全員が家族ということは、お前らは皆オレの子というわけだ。兄弟同士仲良く助け合うんだぞ」

中央に住む子どもたちで、この言葉を聞いたことの無いものはいない。

だが、それを全員が実践できているかといえば、それはまた別の問題だった。

「うわ、ガロットの奴こっちに来るぞ!」

「気をつけろ、あいつに近づくと怪我するかもしれないからな」

八歳のガロットは、そう言われて他の子どもたちから距離をおかれていた。

成長した彼は、大人でも恐れ戦くほどの大きな力を持っていた。

太さが一抱えはある木を軽々と折り倒し、自分と同じくらいの大きさがある岩を簡単に持ち上げることができた。

大人は自分の子どもたちに危害を加えられることを怖れ、子どもは自分達が傷つけられることを怖れる。

ガロットに近付く人は、ごく僅かだった。

「ガロット、またあいつらに何か言われたのか」

ワイネルが俯くガロットの顔を覗き込んで言う。

生まれたときから一緒に育ってきた彼は、ガロットの唯一の友人だった。

兄弟同然に過ごしてきたが、自分達に血の繋がりが無いことは知っていた。

周囲もガロットがよそから来たことを知っていて、余計に彼を厄介者扱いするのだった。

リックがそれを知らないわけはないのだが、彼は何も言わない。

ガロットに目に見える形で味方をしてくれているのは、今のところワイネルだけだった。

「ちょっと力持ちなだけなのにな」

「ちょっとじゃないから嫌なんだろ。いいよ、俺にはワイネルがいるし」

ガロットがそう言いながらも本当は皆と仲良くしたいことを、ワイネルは知っている。

ワイネルは大将の実子ということもあり、多くの人から好かれていた。もちろん彼の明るい性格も要因の一つだが、立場という要素は大きかった。

ワイネルが他の子供たちと遊んでいるのを、ガロットは遠くから見ていることしかできない。

そんな寂しい光景を、ワイネル自身がもう見たくなかった。

「オレだけじゃなく、他の奴らとも仲良くできれば良いんだけどな」

「無理だよ、そんなの…」

すっかり弱気になっているガロットをどうすれば元気付けられるか、ワイネルはいつも考えていた。

西方から難民がやってきたのは、そんな日々が続いていた頃だった。

行列を作ってやってきたその一団には、子どもも何人か見られた。遠くから必死でやってきた彼らを、リックは歓迎した。

「ようこそ、中央へ。西の方はどのような状態なのですか?」

「先日、兵士達に生活に必要な品を奪われまして…。手元に残ったものだけをこうして運んでまいりました」

西では兵士が民衆から物資を搾取しているらしい。同じ地域に住む者同士で争っていることに、リックは心を痛めた。

こうして逃れてきた人々も、新しい家族として迎え入れよう。それがリックの考えだった。

「皆、今日から西方の人たちがオレたち家族に加わることになった。

人が増えるということは、それだけ土地が必要になる。オレたちは絶対にこの場所を守らなければならない!」

今までよりもさらに大きくなる、負けてはいけない理由。どこから誰が攻めてこようと、この場所を、人々を、守らなければならない。

そんな彼らにとって、難民として渡ってきた一人の男の存在はとても心強かった。

「あなたの荷物は随分大きいようですが」

「はい、私は自分の研究を持って来ました。薬草の図鑑や地学など、様々な知識を中央の方々に役立ててもらいたいと思いまして」

金の髪と紫の瞳を持つ彼には、よく似た息子が一人いた。この少年もまた父のもつ知識や知恵の多くを頭に入れていた。

「君の名は?」

リックの問いに、少年は父の陰から小さな声で答える。

「ヴィックス」

「そうか、ヴィックスか。良い名だな。オレの子どもたちと仲良くしてくれると嬉しいぞ」

見たところ、ヴィックスはワイネルやガロットと同じくらいの年齢だろう。

周りになかなか受け入れられないガロットも、新しくここに来た彼となら仲良くなれるかもしれない。

そう考えたリックは、さっそく少年を息子達と会わせることにした。

「ワイネル、ガロット、お前たちに紹介したい奴がいる」

落ち込んでいるガロットと、それを励ますワイネルが、父の連れてきた少年を見る。

「西から来たヴィックスだ。まだここに慣れていないと思うから、お前たちが色々教えてやれ」

リックはそれだけ言って、ヴィックスをその場に置いていく。

ワイネルはさっそく彼に話しかけた。

「よ、ヴィックス。オレはワイネルっていうんだ。こっちの青いのがガロットな」

よろしく、と言おうとしたところで、ヴィックスがそれを遮った。

その言葉は不意に落ちてくる雫のように冷たかった。

「言っておくが、僕は貴様らから何も教わるつもりはない。皆で仲良くなんて、下らない理想論だ」

同じ土地にいた者たちから裏切られたことで、ヴィックスは人を信じられなくなっていた。

さらに彼は自分が知識と知恵を持っているということに高いプライドを持っていた。

「貴様らと馴れ合う気はない。今後僕に構わないでくれ」

ぴしゃりと言い放ち、ヴィックスはその場を去っていく。

それをワイネルとガロットは呆然として見ていた。

だが、それも束の間のこと。ワイネルはあんなことを言われたにもかかわらず、嬉しそうに笑っていた。

「ガロット、オレ良いこと思いついたぜ。あいつと友達になろう」

「え、でも構うなって…」

「あいつを友達にできたら、他の奴と仲良くなるのなんてきっと楽勝だ。そう思わないか、ガロット」

最も気難しそうな奴を懐柔できたら、ガロットも自信が持てるのではないか。

ヴィックスとも仲良くなれて、一石二鳥だ。

ワイネルはこのできごとを、好機だと思っていた。

本当に上手くいくのか不安なガロットも、ワイネルが言うのなら、と立ち上がる。

こうしてワイネルの、そしてガロットの「友達大作戦」は始まったのであった。

 

こうしようと決めた瞬間から、ワイネルはヴィックスに絡みまくった。

初めはヴィックスも無視を決め込んでいた。

だがそうすることで余計に騒ぐワイネルが鬱陶しくなったのか、その翌日にとうとう怒鳴った。

「煩い!人の周りをうろうろして騒ぐのをやめろ!」

「えー、じゃあ友達になろうぜ。ガロットと」

「俺かよ」

「その青頭も迷惑しているのではないか?いい加減人を振り回すのはやめたらどうだ」

「いや、迷惑では…ないけど…」

こうなっても、ガロットはやはり気が弱かった。

今まで冷たい扱いを受け続けてきた彼は、できることなら目立った行動は控えたいと思っていた。

だが唯一の友人であるワイネルに嫌われたくなくて、こうして彼の後をついてまわっている。

弱虫な自分を変えたいと思いながらも、なかなか一歩を踏み出せないガロット。

それをどうにかしてやりたいと、行動に出るワイネル。

その両方に対し苛立ちを覚えるヴィックス。

三人の距離は、簡単には縮まりそうになかった。

見かねたリックが遂に動いたのは、その状態が続いて五日目のことだった。

「お前たちに頼みがある」

リックはちょうど薪が足りなくなる頃を見計らい、三人に拾ってくるよう頼んだ。

元々これはもう少し大きくなった子どもたちに頼む仕事だ。薪を積む押し車が、十歳程度の子ども二人でやっと扱えるくらいの重さであるためだ。

それを敢えて彼らに頼むことで、使命感を持たせ、上手く協力させる。それがリックの狙いだった。

中央の父と言っても良い存在に三人は逆らえなかったが、内心はばらばらのことを考えていた。

ワイネルは父の意向を理解し、これをチャンスだと思っていた。

しかしヴィックスは彼らと一緒にやるように言われたことが気に食わず、

ガロットは他二人に嫌われないよう行動するにはどうすれば良いかということばかり考えていた。

森に入っていくまで、ワイネルはずっと喋っていたが、ガロットはそれに相槌を打つばかり、ヴィックスに至ってはそれすらもなかった。

そんな状態のまま薪拾いは始まるが、まるで息が合わない。

ワイネルは落ちている枝をとにかく拾い、途中で持ちきれなくなり疲れてしまう。

ガロットは力を入れすぎて周囲の木を倒してしまわないよう、辺りを過剰に気にしながら少しずつ拾う。

ヴィックスはどの枝が薪として適しているのか、どの辺りにそれがあるのかを把握できてはいるが、他二人の効率の悪さが気になって進まない。

押し車にはいつまでたっても、充分な量の薪が載ることは無い。

早くしなければ辺りが暗くなり、野犬がうろつくことをリックが事前に話していたというのに。

「ガロット、大丈夫か?」

「いや…あんまり。それより結構暗くなってきたな」

「だよな…全然拾えてないけど、そろそろ戻った方がいいかも」

だがヴィックスを呼んでこなければ帰れない。ワイネルとガロットは薪を押し車に積み、それを残して森の奥へ進んでいった。

足元に気をつけながら、闇に包まれた森の中を進む。目印はヴィックスの金髪。それは幸いにもすぐに見つかった。

「ヴィックス、暗くなってきたから帰ろうぜ」

「貴様ら、全然拾ってないだろう!あんな無駄な枝ばかり持ち帰って、一体何の役に立つんだ!」

「ごめん…でも、もう帰らないと野犬が」

ガロットが言いかけたときだった。低い呻り声が四方から聞こえてきて、闇の中に金色の目がいくつも光り始める。

間違いなく、怖れていたものがやってきていた。

「やば…っ、逃げるぞ!」

ワイネルが二人の手を取って走り出す。だが、動物の習性を知っているヴィックスは怒鳴った。

「貴様は馬鹿か!背を見せて逃げると追ってくるに決まっているだろう!」

時はすでに遅く、何匹もの野犬が彼らを追いかける。相手は速く、決して逃げ切れるものではない。

少しも逃げないうちに、三人は囲まれてしまった。

「どうしよう…」

「どうしようも何も、貴様らの所為だ。食い殺されたら末代まで祟ってやる」

「いや、多分そうなったらオレらも食われてるから、それ意味無いぞ」

じりじりと追い詰められる。

ガロットは足元にあった枝を静かに拾い、握り締めた。

「ワイネル、ヴィックス、…二人で逃げろ」

「ガロット、一人で戦う気か?そりゃ無茶だろ…」

「何を馬鹿なことを。そんなことは不可能だ」

「俺ならできるかもしれない!足止めするから、その間に二人で逃げろ!」

気の弱いガロットが、ここまで言っている。友人を助けたいがために、勇気を振り絞っている。

ヴィックスはそれを怪訝に思いながらも、一言口にした。

「目を離すと襲ってくる」

「…じゃあ、こっちからはできるだけ動かないほうが良いな」

獣の呻り声が響く中、ワイネルは向こうから微かに人の声がすることに気がついた。

森の入り口の方だ。自分達が遅いので、大人たちが捜しに来たのだろう。

「目を離さないで森の入り口まで逃げるには、どうしたらいい?」

「ゆっくり後退りするしかないだろう。そんなこともわからないのか、貴様は」

「そっか。…じゃあ、あっちにゆっくり移動するぞ。野犬が飛び掛ってきたら、枝で払おう」

「細い枝では意味がない。せめてガロットが持っているくらいのものを拾え。絶対に噛まれないようにしろ」

三人は少しずつ後退を始める。野犬たちとの間合いは開きもせず縮みもしない。

ただ目を離さないように、睨み合いながら一歩一歩足を動かす。

だが辺りは暗く、ただでさえ視界が悪い。

ヴィックスが木の根に足を引っ掛けて転倒した時、野犬たちは一気に襲い掛かってきた。

「しまった!」

「退いてろ、ワイネル!」

ガロットが枝を振るう。野犬に掠り動きを止めることはできたが、効いた様子はない。

「噛まれるな!病気になるかもしれない!」

「ガロット、枝を噛ませろ!」

再び飛びかかろうとする野犬の口に、ガロットは拾った枝を横にして突っ込む。

そしてその腹を蹴り飛ばし、地面に叩きつけた。

子どものものとは思えない力だが、それを初めて見たはずのヴィックスは動じなかった。

そんな余裕はなかったからなのか、それともこれなら勝てるという安心感からなのか。

ワイネルとヴィックスは、ガロットを怖れていなかった。

だが状況は良くなったわけではない。野犬はまだいて、ガロットには疲れが見え始める。

子どもの力では、これが限界だった。

「ガロット、来るぞ!」

「え、…だめだ、間に」

合わない、と言う前に、大きな人影がガロットたちを守るように立ちふさがった。

野犬を軽々と弾き飛ばした後、その人影は三人の子どもをまとめて担ぎ、森の入り口まで走る。

木々の間を抜けた時、月明かりでそれが誰だかわかった。

「父さん!」

「リックさん、どうして…」

「どうして、じゃない!こんなに暗くなるまで森にいてはいけないって言っただろうが!」

帰ったらげんこつだからな、と言いながらも、何故かリックは少し嬉しそうだった。

 

しっかりげんこつを喰らった翌日、ガロットとワイネルはいつものように二人でその辺をぶらついていた。

そして他の子どもたちは、いつもと変わらずガロットに罵声を浴びせる。

「昨日遅くまで何してたんだよ!」

「また何か壊してきたんじゃねーの?!やっぱりガロットは悪魔の子だ!」

「あいつら…!」

離れて叫ぶ子供たちを、ワイネルが追おうとしたときだった。

「大人の手伝いもろくにできないくせに、人のことを馬鹿にするのか。貴様らは低レベルだな」

声が子どもたちの向こう側からした。

彼らのすぐ後ろに、ヴィックスが腕を組んで立っていた。

「僕たちは昨日薪拾いを任され、ついでに野犬を倒してきた。

ガロットの力とワイネルの判断力があったからできたことだ。貴様らには到底真似できないと思うがな。

真似しようと思うなよ。貴様らじゃ大人に迷惑をかけて終わりだ」

子どもたちは何も言い返せなかった。ヴィックスの眼力に勝てそうになかったこともあるが、何より感心してしまったのだ。

「薪拾い、行ったのか?」

「野犬倒したって…本当?」

「本当だ。なぁ、ワイネル、ガロット」

ここで二人は初めて、ヴィックスの笑顔を見た。

ワイネルはそのまま勢いでヴィックスに突進し、ガロットはその後を追う。

「痛いだろう、何をするんだ!」

「ヴィックスに褒められて嬉しいんだよ!な、ガロット!」

「うん、俺、自分の力をそういう風に言ってもらえたの、初めてだ!」

「でもあんまり人に言いふらしたら、また父さんに殴られるぞ!」

「解っている。だからこのことは内密にだな…」

ふと、ワイネルとヴィックスはガロットを見て、止まった。

ガロットが笑ったのもまた、ワイネルは随分久しぶりに、ヴィックスは初めて見た。

彼はもう、怖くなかったのだ。自分の力をどのように使えばいいのかと、それを認めてくれる人がいることを知ったのだから。

ガロットは振り向き、さっきまで自分に酷い言葉を投げつけていた子どもたちに言う。

「俺、皆に酷いことしないよ。ちゃんと自分の力の使い方がわかったんだ。

これからはきっと皆を助けられると思うから…だから、俺も仲間に入れてくれないかな」

心からの笑顔で言われると、誰もそれを拒否することができない。

ただ頷いて、「いいよ」と言うだけ。

それから先、ガロットを悪く言う者は誰もいなかった。

 

ワイネルは人々を良い方向へ導くための判断力を得、

ヴィックスは人々が生きていくための知恵と知識を増やし、

ガロットは人々を守るための力を伸ばした。

そうして迎えた長い戦の終盤で、彼らは人々の為に悩み、苦しみ、武器を手にすることになる。

戦いが終わった後に彼らは英雄と呼ばれ讃えられることになるが、それはまた別の話。

少なくともこの幼少期には、全く予想していなかった未来のことである。