痛くなかった?
何がだよ
頬の、傷。
痛かったに決まってんだろ。
…そう。
お前は?
え?
身体の傷。痛くねぇのか?
…痛かった。だけど、これが快感だと思ってたから。
今もか?
今は…
体に残るものよりも、心に受けたものが大きくて。
痛くて、痛くて、でも泣けなくて。
これからは、傷なんかつけさせねぇからな。
どういう意味?
俺が気持ち良い痛み与えてやるよ。
…お前ってさ、…やっぱりいい。
何だよ
何でもない。…おれ、もう寝るから。
もうかよ。…仕方ねぇな、俺も寝る。
…一つ、お願い。
何だよ
抱きしめてて
傷跡を包み込む温かなものにも、傷がある。
自分たちが奇妙だとわかっていて、抱き、抱かれる。
過去に受けた傷は消えないけれど、これから痛みは癒していける。
傷、刺激されると感じねぇ?
…バカ
バカって言うんじゃねぇよ
傷跡を妙に気にした、十四歳の夏のある夜。
今思い出してもバカらしい。
だけど時が経つに連れて、記憶は鮮明になっていく。
今夜もあの頃のように抱いてくれる?